【2020年】本当に読んでよかったオススメ本ランキング11

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昨年に引き続き2020年に読んだオススメの本を11冊選んだ

この記事では2020年に読んでよかった本をおすすめ度でランキングにした。小説もあるし画集も写真集もエッセイもある。

まだ2020年は終わっていないが、おそらく今年は90冊程度の本を読むことになる。
2019年は「読む量よりも、書く量を増やす」と目標を立てた結果、読んだ本は予定通りで例年より圧倒的に少ない65冊だったが、2020年は仕事の部署が変わった関係で読書に充てる時間が激減した。

100冊は最低ラインとして読みたいところだからちょっと残念ではあるが、時間がとれないことはわかっていたので、良質な本を選び、読むことを意識した。
ここでのオススメ本は、僕がこだわって選書した本の中のオススメ本だ。

毎年の年末恒例の記事となっているので、2018年、2019年の記事も併せて紹介しておく。

 

【2018年】本当に読んでよかったオススメ本ランキング11

【2018年】本当に読んでよかったオススメ本ランキング11

【2019年】本当に読んでよかったオススメ本ランキング11

【2019年】本当に読んでよかったオススメ本ランキング11

 

【人気記事:1400冊から本当にオススメするシリーズ】
第1弾は本当にオススメする「写真家が書いた本」
第2弾は本当にオススメする「エッセイ」
第3弾は本当にオススメする「サッカーにまつわる本」
第4弾は本当にオススメする「旅の本、紀行文」
第5弾は本当にオススメする「ルポタージュ」
第6弾は本当にオススメする「日本の現代小説」
第7弾は本当にオススメする「家族愛を感じさせる写真集」
第8弾は「旅をテーマとした写真」を撮りたいと思ったときに参考になるオススメの旅写真集12冊

2020年に読んだオススメの本を紹介する

10.
Pastel/坂口恭平


Pastel / 坂口恭平

独立国家のつくりかたや、隅田川のエジソンで有名な坂口恭平さん。

生粋のアーティストで、文章、歌、絵と表現全てがかっこよく、才能豊かな方である。

言葉もぶっ飛んでいて、意志の強い強い言葉をメディアで発することも多い。
自殺志願者には死ぬ前に電話をかけておいでと、自分の携帯電話の番号を公開し、言葉交わす「いのっちの電話」の取り組みをまとめた苦しい時は電話して (講談社現代新書)も、彼の意志の強さを感じる作品だ。

そんな坂口恭平さんのドローイングをまとめた本がGOD IS PAPERで、装丁も含めてとても魅力的な本なのだが、今回のPastelは彼のパステル画をまとまた作品集。

彼の絵は不思議と僕の心に響く。
その理由はなんだろうと考えていると、あとがきに書かれているエッセイを読むと納得した。

その一部を抜粋。

花岡山の奥には、宮本武蔵が五輪書を書いた金峰山があり、その麓に流れる坪井川、井芹川という二つの小さな川。その川が途中で合流し、そのまま有明海へと流れていく。僕は家の裏に、こんなふうに自然と広がっていたんだと驚きながら眺めた。知っていたのに、目に入っていなかった。自分の住んでいる場所にあるいろんなものたちが、意味を僕に聞かせようとしていた。本当に僕はそんなふうに感じた。それが風景との出会いだった。僕はそんなふうにして風景とおそらく初めて出会った。

坂口恭平というアーティストの魅力が詰まった作品集。

9.
逆ソクラテス/伊坂幸太郎


逆ソクラテス/伊坂幸太郎

毎年なにかしらの本がランクインする伊坂幸太郎さん。
僕は大学生の頃から常に1番好きな小説家としてランキングしているのだが、その伊坂さんが今年めでたくデビュー20周年を迎えたらしい。

おめでとうございます。
思い返せば僕自身も伊坂さんの本を20年弱読み続けてきたなあと、感慨深い。

そんな今回の伊坂作品は短編集で、全ての作品の主人公はが小学生。伊坂作品では初めての試みである。

テーマは先入観や常識を疑うことで、読んでいて爽やかな気持ちになる伊坂作品らしい小説。

あとがきに、伊坂さん自身のメッセージで「デビューして20年、この仕事をしてきた1つの成果だと思っています」といったことが書かれていて、なぜか僕も感動した。

「たとえばさ、加賀のお父さんが会社を首になったとするだろ」
「なってないけど」
「たとえばだよ。で、誰かに、情けない父親だな、と言われたとする。周りの同級生は少し笑うだろう。そこで加賀は、これだけは言い返すべきなんだよ」
「何て」
「『僕は、情けないとは、思わない』ってさ」
安斎は自信に満ちた言い方をする。

「その時、何か、テレビ解説の人?コメンテーターっていうの?言ってたんだよ。義理の父親が虐待するケースは多いんですよ、って」
僕はその話は聞いたことがなかったから、とっさに、「まあ、そうやって決めつけちゃうのも怖いけどね」と答えた。
母がよく、「物事を決めるけるのは怖い」と言っているからかもしれない。

 

決めつけは、人を混乱させるし、苛立たせるし、トラブルを生む。

娘に対して接する時にも、特に気をつけたい部分だなと思う。

8.
それでも俺は、妻としたい/足立紳


それでも俺は、妻としたい

妻とのセックスレスを解消したいと奮闘するおバカな放送作家の視点から描かれた小説。

そのダメさ加減に時々イライラするのだが、その切実な思考にクスっと笑ってしまう一冊。

まあ、女性が読んでも共感はないかもしれないけれど、エンタメとして読んでいて面白かった。

7.
答えより問いを探して 17歳の特別教室/高橋源一郎


答えより問いを探して 17歳の特別教室

17歳の特別教室シリーズの最初の1冊である高橋源一郎さんの「答えより問いを探して」が面白かったので、今年1年でそのほかのシリーズ本をけっこう読んだ。

「17歳の特別教室」 とは?
高橋源一郎、佐藤優、瀬戸内寂聴、岸見一郎、京極夏彦、磯田道史の6人の人気著者が、現役高校生を対象に、現代を生き抜くうえで必要な知恵を伝える「特別授業」をおこない、その内容をもとに書籍化したシリーズ。

佐藤優さんや岸見一郎さん、瀬戸内寂聴さんなどの著名人が高校を訪れて特別授業を展開するシリーズ本。それぞれの著者の言葉が重いので読んでいて面白い。実際の授業の様子なんかの動画があれば、生徒の反応を含めて授業の様子を見てみたくなる。

下記に本書で僕が気になった文章をまとめたのだが、著者の高橋源一郎さんはとても素敵な言葉を高校生に送っていて感心した
オススメのシリーズ本です。

ぼくがいい先生だと思えるのは、質問されるまで黙っている先生です。そして、質問されたら、答えではなくて質問で返す。答えるのではなく、最初の質問で感じた疑問をもっと大きく成長させて、さらに大きな疑問にしてくれるような先生です。

あなたたちも、あなたたちのやり方で素晴らしい先生を見つけてほしいと思います。先生はどこにいるかわかりません。ですから、見つけるためには、いつも世界で起こる出来事をしっかりと見つめて耳を澄まして、考えていなければなりませんね。いつも、です。

社会のどこかにあなたの先生となる人がいて、その先生は誰かが引き合わせてくれるのではなく、自分が行動することで出会うことができる。とても素敵な言葉だと思う。

6.
息子と狩猟に/服部文祥


息子と狩猟に (新潮文庫)

毎年なにかしらの本がランクインする人気作家であるサバイバル登山家の服部文祥さんの処女作となる小説。

服部文祥とは?
サバイバル登山家の異名をもつ異彩な登山家。「山に対してフェアでありたい」という考えから、食料を現地調達し、装備を極力廃した「サバイバル登山」のスタイルで活動をしている。情熱大陸での有名な滑落シーンや、amazon primeのカリギュラで東野幸治さんと狩猟を共にした姿などメディアにも多数出演している。著書の「ツンドラ・サバイバル」が最高におもしろい。

この小説には2編の短編が描かれている。一つは「狩猟」、もうひとつは「登山」がテーマである。
どちらも服部さんのこれまで培ってきた経験が活かされたテーマではあるが、もちろん「サバイバル登山家」なんて名乗る人の書く小説が、そんな単純な作品なはずがない。

私たちが暮らす人間界と、動物たちが暮らす山々などの自然界。
狩猟や高所登山には厳しいルールやマナーが存在するのだが、人間界にあるタブーやモラルは、自然界ではタブーやモラルとして存在するのだろうか?

夜中に鹿を撃つこと(捉えること)はいけないことなのか?
サバンナでライオンがインパラを捉えて食べることはいけないことなのか?
仲間を見捨てて自分だけが生きようとすることはいけないことなのか?
チーターに狙いを定められたシマウマを見捨てて自分だけが逃げることはいけないことなのか?

それぞれの世界でのタブーとモラルの境界線を考えさせられる、一癖も二癖もある作品。

人殺しは一番重い罪だ。すくなくとも世の中ではそうなっている

服部さんが書いたツンドラ・サバイバルが好きなのだが、そこに彼を表す名文があったので紹介する。


ツンドラ・サバイバル

言葉は通じなくても、私にとってミーシャは気心が通じ合う猟仲間であり、ミーシャの存在は私の理想だった。理想の人間に出会い、理解し合えたことは、これまでの自分の生き方が間違いでなかったと確認することでもあった。
狩猟の経験がなければ私は性格にミーシャを理解できたとは思えないし、正しく評価できたとも思えない。
さらにミーシャはミーシャのような狩人が世界中にいるという証拠でもあった。それはそのまま過去にも未来にも、私にとって信用できる狩猟仲間、山仲間が存在するという証拠だとも考えることができるはずだ。

また、ツンドラ・サバイバルは、このブログの一番の人気記事である「心からオススメできる面白い「旅の本・紀行文20冊」」でも紹介しているので、ぜひ読んでみてほしい。

心からオススメできる面白い「旅の本・紀行文20冊」

【息子と狩猟に】は書評記事を書いているので、興味のある方は服部文祥|「息子と狩猟に 」を読んで考えたを読んでみてほしい。

服部文祥|「息子と狩猟に 」を読んで考えた

5.
ノースウッズ -生命を与える大地-/大竹 英洋


ノースウッズ─生命を与える大地─

世界最大級の原生林、ノースウッズを舞台に自然写真家として活躍する大竹英洋さんの写真集。この分厚い写真集が3000円を切る価格で手に入るということで、図書館で借りて読んだにも関わらず、その後にAmazonでポチっと押してしまった。

眩い朝の光が、葉っぱに滴る雫が、動物たちの呼吸が、植物たちの息吹がとても印象的な写真で、大竹さんがいかにこの地を愛しているかが伝わってくる。

写真家がなにを見て、なにを撮りたいと思ってシャッターを切ったのか
その視点が強く伝わってくるので、写真を撮りたいと思う人にとって参考となる一冊。

ちなみに、まだ何者でもなかった大竹英洋さんが、いかにしてノースウッズにたどり着いたのかを書いたそして、ぼくは旅に出た。も、「心からオススメできる面白い「旅の本・紀行文20冊」」で紹介している。
とても素敵な本なのでぜひ読んでみてほしい。


そして、ぼくは旅に出た。: はじまりの森 ノースウッズ

 

初めてノースウッズに足を踏み入れたとき、草木の名前一つ知らなかった。全ての情報が当価値に視界に飛び込んできて、一歩も動けなくなることさえあった。それでも毎日森へ出かけ、異なる樹皮の手触りを確かめ、風の匂いを嗅ぎ、鳥たちの歌に耳をすませ、動物の足跡を追った。森に満ちている気配を読み取ろうと、五感の神経を研ぎ澄ませた。しかし、森は気難しく気分屋で、ほとんど何も語ってはくれなかった。

その場所を知ることで、同じものを見ているにも関わらず解像度が上がってくる。
写真家の撮る写真とは、その解像度が高まったものだと思う。

普段なら見過ごすかもしれない光景に足を止め、撮影する行為を表した一文。

4.
まれびと/石川直樹
まれびと / 石川直樹

2冊連続の写真集。
こちらは写真家・石川直樹さんが”まれびと”を写した写真集となる。

まれびととは?
まれに訪れてくる神または聖なる人。日本の古代説話や現行の民俗のなかに,マレビトの来訪をめぐる習俗が認められる。古代人はマレビトを一定の季節に訪れてくる神とし,この世に幸福をもたらすために,海のかなたから訪れるとも,また簑笠で仮装して出現するとも信じていた。現在に伝えられる秋田のなまはげも,マレビト信仰の面影を伝えるものである。

日本列島を北と南に分け、古くから伝わる伝統行事で現れる神や聖人を撮影しており、図鑑のように各地域のまれびとが紹介されていて興味深い。

いつかその地を訪れてみたいと思うような一冊。

ポゼ。吐噶喇列島の悪石島に、年に1度出現する異形の神である。

ポゼは手にマラ棒と呼ばれる男性器を模した棒を持ち、女性や子供たちを追いかけた。マラ棒の先には赤土が塗られていて、その赤土が体につけば無病息災で1年を過ごせるというのだが、子供たちは本気の形相でポゼから逃げ惑っていた。

上の写真がポゼ。
今まで見たこともないような形の神である。
森の中からこの姿が現れたら、それはもう異様な光景だろう。

”下甑島のトシドン。
3体が居間に揃うと、その家の子どもが起立して歌を一曲歌わされ、歌い終わると餅を背中に載せて四つん這いになって運ばなくてはならない。餅を落とすとトシドンに怒られ、最初からやり直しだ。
言葉にならない声をあげながら闇の中を歩くトシドンと、その声が聞こえた瞬間から泣き叫ぶ子どもたちの姿が、今も目に焼き付いて離れない”

 

悪石島のボゼや宮古島のパーントゥはビジュアルが強烈な印象だが、なんと言ってもこの写真集を読んでみて僕が一番気に入ったのは下甑島(しもこしきじま)のトシドン

トシドンの声が聞こえた瞬間から子どもが泣き叫ぶにも関わらず、家に上がり込んでくると一曲歌わされ、餅を背中に載せて四つん這いになって運ばされ、餅を落とすと怒られる。

子どもにとって、その恐怖と非日常体験は一生忘れないだろう。

【まれびと】は書評記事を書いているので、興味のある方は石川直樹|「まれびと」を読んで考えたを読んでみてほしい。

石川直樹|「まれびと」を読んで考えた

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【番外編】
SEEKING QUIETNESS/SOGEN HIROSHI


SEEKING QUIETNESS

2020年のランキングを語るときに、僕がBEHIND the GALLERY PUBLISHINGから出版した写真集をランクインさせないわけにはいかない、ということで手前味噌ながら自分の写真集を番外編として紹介させてください。

キューバの静寂をテーマにしたこの写真集は、陽気な音楽や鮮やかなクラシックカーやカリスマ的な人気を誇るチェゲバラのもつ派手なイメージのキューバが写し出されているのではなく、絵画的な静寂のキューバを知ることができる一冊となっています。

どんな場所にも表と裏があり、先入観を置いてきた先に見るキューバの静寂に引き込まれるはず。

この写真集の編集や装丁をして頂いた写真家の中村風詩人さんより写真集の解説を書いて頂きましたので、引用します。

群青色に塗られた古びた一室で、がたつきながらも凜と構える一脚の椅子の姿があった。初めてその写真を見たとき、その際立った美しさに目を奪われた。まるでリングの上で最終ラウンドを終え、闘い抜いた王者の風格さえ漂う。もう一方の表紙の写真を私は著者には無断で「CUBA CROSSING」と名付けている。キューバの混沌とした街並みにおいて、人と人は常に生活している。その中でほんの僅かな出来事で関わり合いを持って生きているはずだ。それは曲がり角で肩が触れることかもしれないし、ご機嫌な者が手を振ることかもしえれない。そんな風に人の人生が他人の人生と交差する瞬間がとても好きだ。このCUBA CROSSINGの一枚は、刹那的な人の関わり合いをまさに体現したものに思えた。

2,3度本書を手に取った読者はおおよそ気づくと思うが、本書はキューバの写真集ではない。これは写真家宗玄浩が旅の中で葛藤し、境地を開いたことを表現した写真集だ。そしてその舞台がたまたまキューバだった、というだけのことである。構成は大きく分けて2章となっている。「喧噪」と題された一章では、著者がキューバを訪れる前に描いていた理想のキューバ、つまり世間一般の広告で形作られた騒がしく賑やかなキューバが描かれている。そして続く「静寂」と題された第二章では、二度にわたる渡航で悟った著者なりのキューバが写されているのだ。それは一般的なキューバのイメージとはほど遠く、森林や高山でみた神々しい現象かのごとく・・・・・・静かで厳かな都市のポートレートに他ならない。

私たちは常に情報にまみれて生きている。有意義に生きるには、情報はふるいに掛けられ、個々に適した解釈に変わられなければならない。本書をめくるたびに、その哲学にも似た感覚に啓蒙される。溢れた情報によって植え付けられた画一的なイメージが、実体験を元に自分なりのイメージに塗り替えられた時、おそらくこれらの写真は初めて写真家自身の作品となる。読者の誰しもが苦難にあたったその時、もしかしすると本書は進むべき活路を示してくれるかもしれない。

(写真家:中村風詩人)

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3.
探検家とペネロペちゃん/角幡唯介


探検家とペネロペちゃん

こちらも毎年なにかしらの本がランクインする角幡唯介さん。
2018年のベスト本に選んだ「極夜行」は、全ての人に読んでみてほしい一冊。

【2018年】本当に読んでよかったオススメ本ランキング11

北極圏には「白夜」と呼ばれる時期があることは、社会の授業で習っているので覚えている人も多いだろう。
白夜は、太陽が沈まない時期のことを表しているのだが、その反対に「極夜」という時期がある。

極夜は、太陽が昇らない時期のことを表していて、その名の通り、ずっと真っ暗な期間が北極圏周辺にはある。
その真っ暗な時期を犬とともに歩きながら数ヶ月探検し、その後に出会う太陽にはどのような意味があるのかを知る、という探検をするような硬派で理解不能な探検家・角幡唯介さん。

そんな彼が、結婚し、娘の父になった。

探検家とはいえ、一児の父。
子どもができることで、”あの角幡唯介”が、こうなったのか!と、思わず笑ってしまう一冊。

僕も娘が生まれたことで、この文章に心が震えるようになった。

 

「すごかったね、あおちゃん、全部一人で歩いたんだよ。あおちゃんしかできないよ、こんなこと。登ってよかった」

二十二年前に登山をはじめて、私もこれまで多くの山々を登ってきた。厳冬期の北海道の山を一ヶ月近くかけて縦走し、屋久島の沢を単独で縦断した。冬の黒部峡谷も横断したし、幻の滝と呼ばれる剱沢大滝も完登した。雪崩にも三回埋まった。
でも、娘と登ったこのときの天狗岳ほど感動した山はない。橋を渡りきったペネロペが感動の言葉を叫んだ瞬間、私はもう駄目だった。心が震え、頬のまわりの血管が膨張し、鼻頭に何か熱いものがこみあげてきた。言葉を口にしようとすると、涙がこぼれそうになる。この子は今、生まれてはじめて達成感というものを知ったのだ。ひたすら身体を動かし、困難を乗り越え、目標を達成したときに突き上げてくるあの清々しい気分が、身体全体にくまんくみなぎるのを感じているのである。自分の子どもが手にしたものの大きさを想像するだけで、私は心臓を素手で掴まれたように心が震えた。

なんて素敵な文章なのだろう。

探検家にとって、自分の足で未開の地を歩き、挑戦することが生きがいだったはずで、それこそが達成感を得られることであり、生きる意味だったと思う。
だけど、それらを味わってきた探検家・角幡唯介が登ってきたどの山よりも、「娘と一緒に登った平凡な天狗岳ほど感動した山はない」と書かれている。

自分の達成感を得ることは貴重な体験だが、大切な人の達成感を得ることに立ち会えることは更に貴重なのかもしれない。
誰かのために生きることについて、考えた一冊。

2.
なんで僕に聞くんだろう/幡野広志


なんで僕に聞くんだろう。 (幻冬舎単行本)

2019年のベスト本の2位と5位にランクインした写真家の幡野広志さん。

【2019年】本当に読んでよかったオススメ本ランキング11

その幡野広志さんの言葉の価値を更に高めたのが、この人生相談本だと思う。

著者の幡野広志さんは、写真家で元狩猟家でガン患者なのだが、タイトルの通り「なんで僕に聞くんだろう?」と思うような質問が多数寄せられていく。

不倫をしています、親と折り合いがよくありません、虐待を受けています、親を説得して一人旅に出たいんです…

多様な質問に、幡野さんが新しい視点を加えながら答えていく本書は、きっとあなたの思考を広げてくれる。

コミュニケーション能力が低い人ってどんな人を想像しますか?ぼくはなんとなく、人と目が合わせられないとか、消極的で相手との距離感が遠い人を想像していました。
でもここ1年でたくさんの人とお会いしたり、メッセージやメールなどのやりとりをしたりして感じたことなのですが、本当にコミュニケーション能力が低い人というのは、相手との距離感が遠い人ではないんです。相手との距離感が近すぎる人のほうが、むしろコミュニケーション能力が低い人なんだとおもうようになりました。

すでに1年以上説得を試みてて、納得しないならまず無理だよ。勝手に行くか、行かないかの二択。責任は自分しかとれません。
親はもちろん、周囲の人間全員にいい顔してもらうことなんて不可能なの。そんなことよりも自分がいい顔になることを考えなくちゃ。

目的地に行くことが旅ではありません、出発地から乗り物に乗って、出会った景色や食べたご飯、感じたこと、無事に帰宅するまでを描いた線が旅なんです。だからおなじ目的地でも、まいかい違う旅になります。だから旅はたのしいの。

しあわせの価値観というのは人それぞれなんだけど、なぜか自分のしあわせの価値観を人に押し付けてしまうんですよね。
しあわせの価値観をいちばん押し付けてくるのが、親だったりします。子どものしあわせに向かって親が伴走するならいいんだけど、子どもの首に縄をつけて引きずりまわす親はわりといる。でもそんなことをすれば、子どもは自分のしあわせを捨てて、親の顔色をうかがうだけです。

ただ、あなたにとってのしあわせは、他の誰かにとってはしあわせではないかもしれません。それくらいしあわせのかたちというのは多種多様です。結婚とか出産とか、ドラマが描くようなしあわせのかたちがあるけど、それが日本人全員のしあわせとは限らないです。

重たい内容もあって、一気に読むと少し疲れるので、少しずつ、あなたが読みたい時に読むことをオススメします。

1.
ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー
/ブレイディ みかこ


ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー

2019年ノンフィクション本大賞を受賞したブレイディみかこさんのぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルーが、今年読んだナンバー1。

ノンフィクション本大賞とは?
ノンフィクション本のおもしろさや豊かさをもっと体験して欲しいと、本屋大賞とヤフー株式会社の協力により、要望の高かったノンフィクションを対象にした賞。2018年に新設されたこの賞は、過去の受賞作として、このブログでも【2018年】本当に読んでよかったオススメ本ランキング11で1位に認定した「極夜行|角幡唯介」がある。

物語の舞台は、イギリス人の父親と、日本人の母親から生まれた中学生の「ぼく」が、イギリスで暮らす中で起こる日々を綴った作品です。
その中で直面する人種差別、ジェンダーの悩みや貧富の差、自分のアイデンティティ…。
1つ1つの出来事に直面するたびに「ぼく」や母が考え、それぞれの視点が増えていくことで、読者である僕自身も考えるようになっていくような引き込まれていく作品です。

この物語の舞台はイギリスですが、決して対岸の話ではなくて、世界で、日本で、僕の暮らす街で、家の周りで少しずつ形を変えながら起こっていることでもあります。作品が展開していく度に、きっとあなたの世界とリンクしていくはずです。

この作品は、きっと永久に読まれ続けるだろう作品です。ぜひ読んでほしい。

そう言って笑っている息子を見ていると、彼らはもう、親のセクシャリティがどうとか家族の形がどうとかいうより、自分自身のセクシャリティについて考える年頃になっているのだと気づいた。さんざん手垢のついた言葉かもしれないが、未来は彼らの手の中にある。世の中が退行しているとか、世界はひどい方向に向かっているとか言うのは、多分彼らを見くびりすぎている。

少年の通う学校では「シチズンシップ」の授業があります。
その授業では人種差別や世界の文化、LGBTQや政治活動について学ぶのですが、その授業で習ったことを実世界で体験する場面が多々でてきます。

例えば、LGBTQについての授業を受けた日の帰り。

12歳になった4人の友人たちの中で「ぼく」とAくんは「異性が好きだ」と話していた。
「当たり前だ、異性以外ありえない」とムキになったBくんもいました。
そんな中、「ぼくはまだわからない」と言ったCくんがいた。

Bくんは、最初ショックそうな様子をしていたのだけれど、Cくんがあまりにクールで冷静に話したものだから、それに気圧されたように「時間をかけて決めればいいよ」なんて言った。
そんな様子のBくんがおもしろかったと母に話す「ぼく」

これ、すごくないですか?

日本の12歳といったら、他と違うことを極端に恐れる年代ですよね。

個性を出したいと思いつつも、他人と大きく外れることも、意見が異なることも、良しとしないような空気がある。
変に目立たないように、例え意見があったとしても黙っていることも多く、こうやって友人に「もしかすると自分は同性愛者かもしれない」と伝えられるような環境は少ないように感じます。

これは教育の力だと感じるし、とても素敵なことですよね。
それこそ「無知」は人を傷つけることを生むけれど、こうやって「知っている」だけで一つずつ視点が増えていく、まさに教育の力だと感じます。

差別、貧困、思想
この本にはこういったちょっと重たそうな事柄が散りばめられていながらも、何度でも読みたくなる作品です。

今年のナンバー1は、ブレイディみかこさんの「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」

この本をレビュー記事はコチラ。

ブレイディみかこ|「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー 」を読んで考えた

合わせて読みたい記事を紹介

 

【2018年】本当に読んでよかったオススメ本ランキング11

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【2019年】本当に読んでよかったオススメ本ランキング11

この記事とリンクして「2019年に読んだ本から心に響いた20の言葉をまとめてみる」という記事や「2018年に読んだ本から心に響いた20の言葉をまとめてみる」もある。合わせて読んでみてほしい。

あなたの背中を押してくれる言葉に出会えるかもしれない。

 

【人気記事:1400冊から本当にオススメするシリーズ】
第1弾は本当にオススメする「写真家が書いた本」
第2弾は本当にオススメする「エッセイ」
第3弾は本当にオススメする「サッカーにまつわる本」
第4弾は本当にオススメする「旅の本、紀行文」
第5弾は本当にオススメする「ルポタージュ」
第6弾は本当にオススメする「日本の現代小説」
第7弾は本当にオススメする「家族愛を感じさせる写真集」
第8弾は「旅をテーマとした写真」を撮りたいと思ったときに参考になるオススメの旅写真集12冊

来年はどんな本に出会えるだろうか。
今から楽しみだ。

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