2005年から読んだ本を記録し始めて、今まで続けてきた。きっと生涯この習慣は続くだろう。1400冊を超えた今、本当にオススメする本をジャンルごとに紹介していこうと思う。
「僕が選んだ本」という視点を盛り込みたいので、僕ならではのニッチなジャンルのオススメ本を紹介する。
例えば、写真家が書いた本。
自分の半生を描いた本、サッカーにまつわる本、丁寧な取材から描かれた本、自分の日常を言語化した本、信頼できる小説家。
1300冊も読んでいれば、おのずと好みがわかってくる。
それらをジャンルを分けし、僕ならではの視点で選書をしていきたい。
今回は、そのシリーズ第1弾「写真家が文章を書いた本」だ。
■第2弾は本当にオススメする「エッセイ」
■第3弾は本当にオススメする「サッカーにまつわる本」
■第4弾は心からオススメできる面白い「旅の本・紀行文20冊」
■第5弾は本当にオススメする「ルポタージュ」
■第6弾は本当にオススメする「日本の現代小説」
■第7弾は心からオススメする「家族愛を感じさせる写真集」
■第8弾は「旅をテーマとした写真」を撮りたいと思ったときに参考になるオススメの旅写真集12冊
■第9弾は誰かに贈りたくなるプレゼント本50冊
目次
写真家が文章を書いた本の魅力
「写真家とは、見る仕事だ」と言った方がいた。
そこにぼんやりと存在する物事や心象を深く見ることで、その対象物を撮影する。
ぼんやりと見ているだけでは流れていってしまう瞬間を見留めることから写真家の活動はスタートする、そんな話をしてくれた。
写真家の書く文章はとても心に響く作品が多い。
それは、写真家の特性である「物事を見る力」が備わっているからだと思う。
よく見ることで、よく考えるようになる。
同じ風景を共有していても、より鮮明な解像度で見ることで、心象をより深く感じることができるというわけだ。
写真家が書いた文章を、ぜひ読んでみてほしい。
本当にオススメする写真家が書いた本
1.
ライド・ライド・ライド/藤代冥砂
写真家の藤代冥砂さんは、まだ何者でもなかった若かりし頃に、世界中を旅した。
飛行機に乗り、バスに乗り、女に乗る。
愛する人と出会い、愛した人と別れ、また愛する人と出会った。
美しい景色の話など、なにひとつ書かれていない。
いろいろな人と出会い、心の浮き沈みを体験し、移動することこそが彼にとっての旅なのだ。
その数年後、愛する妻と結婚した様子を撮影した「もう、家に帰ろう」では達観したような、優しさに包まれた文章を書いた。
そんな藤代さんからはあまり想像できないちょっぴりセンチメンタルな描写も、若さと捉えればこの時期にしか書くことが出来ない特別な文章なのだと納得できる。
もしかすると、僕が世界で一番好きな本はこの本かもしれない。
ペギーと交わしたキスは最後のキスだ。
あの、サイゴンでの十日間がなかったら、私の旅はもっと早くに終わってしまったかもしれない。つまり、生きることの意味の半分を失うことになっていただろう。そうだったとしたら、意味が半分しかない人生はどんなふうにすぎていったのだろう。
静脈を震わす青さに満ちた明け方の五分を知っていたとしても、ギターアンプから初めて音を出した時の喜びを知っていたとしても、それはとるに足りないことだ。どうでもいいことだ。
2.
全ての装備を知恵に置き換えること/石川直樹
僕は写真家の石川直樹さんがとても好きなのだけれど、その石川さんを好きになったきっかけは、この本からだった。
地図やコンパスなどを持たずに夜空に浮かぶ星と地形だけで航海を行うミクロネシアの旅、高校2年生のときに一人で訪れたインドへの旅、北極から南極までを自転車やカヤックなどの人力で移動したPOLE TO POLEの旅、文化も言葉も同じ土地が、国境という線を越えるだけで分断されることを実感させてくれる。
現在もなお旅を続けている石川直樹さん。
その旅は、垂直方向は8000メートルを超える山々であり、水平方向では北極や南極も都市も全てが旅の対象として活動している。
石川さんがまだ20代の頃に訪れた旅について、そして彼が旅を通して感じた世界との繋がりについて書かれているこの本は、写真家が写真では表現しきれない部分を愚直で真っ直ぐな言葉で鮮やかに描いてくれている。
僕は人が毎日を過ごしていく中で、ある出来事からふと感じる意識や気づきの部分をおもしろいと感じる。
この本には、そんな体験がつまっている。
旅を通して人が学んでいくことについて考えさせられる一冊。
3.
旅をする木/星野道夫
アラスカを愛し、アラスカに愛された写真家・星野道夫さんの代表作が「旅をする木」だ。
アラスカの絶対的な自然
太古の昔から変わることがないカリブーの大移動
人々が語り継いできた神話の世界
芯に刺さる言葉を持ったブッシュパイロット達
クジラやシロクマたちの不思議な行動
短い夏や長い冬の間に彩る春や秋の美しさと季節の移り変わり。
それらを温かく優しい言葉で、星野道夫が紡いでくれている。
この本を読んだ以前とこの本を読んだ以後で、なにかが変わった。
もしかすると、大袈裟ではなく、そういった人は多いのかもしれない。
ある人は仕事を辞めたかもしれないし、ある人は日常の尊さに気がついたかもしれない。
ある人は旅立ったのかもしれないし、ある人は日々の些細な変化に目を向けるようになったのかもしれない。
僕にとって旅をする木は、この世界を旅しようと思ったキッカケになった一冊である。
その回数を数えるほど、人の一生の短さを知ることはないのかもしれません。
アラスカの秋は、自分にとって、そんな季節です。
時が過ぎていく儚さをここまで完璧に表現する文章を、僕は他に知らない。
この文章に出会えただけで、この本に出会えてよかったと思える。
星野道夫の旅をする木に、栞はいらない。どこから読んでもいいし、読まなくてもいい。
いつ止めてもいいし、何度読んだっていい。
星野道夫は、いつだって大切なことを伝えてくれる。
そして、大切なことは何度でも、伝えてくれる。
あなたが読みたいときに、読みたいページから読むことをオススメする。
アラスカの雄大な自然と星野さんの言葉を楽しんでみてほしい。
4.
旅情熱帯夜/竹沢うるま
写真家の竹沢うるまさんが世界一周の旅をした際の写真や言葉をまとめた一冊。
竹沢うるまさんの書く文章や、些細な光を写し出す写真は、多くの人が何気なく見過ごしてしまう日常の出来事に、彼が気づき、足を止め、切り取っているからなのだと気づかせてくれる。
彼の著書を読むだけで、旅を通して自分との対話を特に深くしているのがわかる。
旅を追体験できるような、そんな一冊。
ちなみに世界一周の旅で、写真に特化した著書は「Walkabout」で、文章に特化した著書は「The Songlines
」で読むことができる。
どちらもとても素晴らしい作品なんで、ぜひ読んでみてほしい。
列車をいくつも乗り継ぐと、その先に自分の知らない世界があり、またさらにバスを乗り継ぐと、どこまでも行くことができる。
山を越え、海を渡り、砂漠を歩き、川を下る。
そこには見知らぬ人々が住んでいて、聞き慣れない言葉を話し、不思議な伝統とともに生きている。
そこに知らなかった価値観があり、幸せがあり、また危険がある。
それをひとつひとつ経験して、一歩ずつ進む。
そんな冒険譚を、話したくなった。
5.
父の感触/小林紀晴
ASIAN JAPANESE―アジアン・ジャパニーズ〈1〉で有名な小林紀晴さんは、「写真学生
」という自伝的小説も書いていて、文章を得意とする写真家である。
乾いた文体で淡々と進んでいく描写の中で、ふと心が揺さぶられる感覚を感じる。
モラトリアム期の「なにものかになりたいけれど、どうしようもない悶々とした感情」を表現することが本当に上手な写真家だ。
「父の感触」は、二つの場面が行き来して進んでいく。
ニューヨークでテロが起きた9.11の瞬間にニューヨークにいた筆者の喪失と、父の死にともなう喪失。
二つの喪失を通して筆者が語ること。
小林さんの文章は、心の隙間にひどく響く。
なのにYさんはそのことに気がついていないかのように、お母さんのことをしきりに心配している。
人は人を想い、人を案ずる。
6.
そして、僕は旅に出た/大竹英洋
だれもが、何者でもなかった頃。
一人の偉大な写真家は、写真家に憧れるただの旅人だった。
導かれるようにノースウッズの森にたどり着き、人々と出会い、写真を撮る楽しさを感じていった著者。
大きな流れに乗ることで、偶然が必然であるかのような不思議な出会いがやってくる。
そんなことを感じさせる一冊。
そのノースウッズの森をまとめた写真集「ノースウッズ─生命を与える大地─」を合わせて読むと、大竹さんの苦悩や息遣いよりリアルに感じることができる。
わたしは、そんなきみの視線がとても好きだ。
7.
なんで僕に聞くんだろう/幡野広志
著者の幡野広志さんは、写真家で元狩猟家でガン患者なのだが、タイトルの通り「なんで僕に聞くんだろう?」と思うような質問が多数寄せられていく。
不倫をしています、親と折り合いがよくありません、虐待を受けています、親を説得して一人旅に出たいんです…
多様な質問に、幡野さんが新しい視点を加えながら答えていく本書は、きっとあなたの思考を広げてくれる。
でもここ1年でたくさんの人とお会いしたり、メッセージやメールなどのやりとりをしたりして感じたことなのですが、本当にコミュニケーション能力が低い人というのは、相手との距離感が遠い人ではないんです。相手との距離感が近すぎる人のほうが、むしろコミュニケーション能力が低い人なんだとおもうようになりました。
すでに1年以上説得を試みてて、納得しないならまず無理だよ。勝手に行くか、行かないかの二択。責任は自分しかとれません。
親はもちろん、周囲の人間全員にいい顔してもらうことなんて不可能なの。そんなことよりも自分がいい顔になることを考えなくちゃ。
目的地に行くことが旅ではありません、出発地から乗り物に乗って、出会った景色や食べたご飯、感じたこと、無事に帰宅するまでを描いた線が旅なんです。だからおなじ目的地でも、まいかい違う旅になります。だから旅はたのしいの。
しあわせの価値観というのは人それぞれなんだけど、なぜか自分のしあわせの価値観を人に押し付けてしまうんですよね。
しあわせの価値観をいちばん押し付けてくるのが、親だったりします。子どものしあわせに向かって親が伴走するならいいんだけど、子どもの首に縄をつけて引きずりまわす親はわりといる。でもそんなことをすれば、子どもは自分のしあわせを捨てて、親の顔色をうかがうだけです。
ただ、あなたにとってのしあわせは、他の誰かにとってはしあわせではないかもしれません。それくらいしあわせのかたちというのは多種多様です。結婚とか出産とか、ドラマが描くようなしあわせのかたちがあるけど、それが日本人全員のしあわせとは限らないです。
重たい内容もあって、一気に読むと少し疲れるので、少しずつ、あなたが読みたい時に読むことをオススメします。
藤代冥砂、石川直樹、星野道夫、竹沢うるま、小林紀晴、大竹英洋、幡野広志
写真家が書いた文章は、感情を揺さぶられる作品が多い。
それは、写真家が普段では見過ごしてしまうような決定的瞬間に目を留め、写真に撮る作業をしているからだと思う。
写真に撮っていた作業を、作業を文章に起こすだけ。
大切なことは、そのことに気づくことだと思う。
その表現方法がカメラなのか、文字なのかの違いなのだから。
写真家の文章作品。
ぜひ読んでみてください。
■第1弾は本当にオススメする写真家が書いた本
■第2弾は本当にオススメする「エッセイ」
■第3弾は本当にオススメする「サッカーにまつわる本」
■第4弾は心からオススメできる面白い「旅の本・紀行文20冊」
■第5弾は本当にオススメする「ルポタージュ」
■第6弾は本当にオススメする「日本の現代小説」
■第7弾は心からオススメする「家族愛を感じさせる写真集」
■第8弾は「旅をテーマとした写真」を撮りたいと思ったときに参考になるオススメの旅写真集12冊
■第9弾は誰かに贈りたくなるプレゼント本50冊
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