石川直樹|「まれびと」を読んで考えた

書評記事を書くことを続けてみる

このブログの読者から「たくさん本を読んでいるのでオススメの本を教えてほしい」と伝えられたことがある。

いろいろ考えた結果、読み終わった後の記憶が新しい状況の中で、記事を1本書くことを続けてみることにした。

決意してから9冊目は写真家・石川直樹の写真集「まれびと」について書いてみる。

まれびと|石川直樹

まれびと|石川直樹


まれびと

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小学館
まれびととは?
まれに訪れてくる神または聖なる人。日本の古代説話や現行の民俗のなかに,マレビトの来訪をめぐる習俗が認められる。古代人はマレビトを一定の季節に訪れてくる神とし,この世に幸福をもたらすために,海のかなたから訪れるとも,また簑笠で仮装して出現するとも信じていた。現在に伝えられる秋田のなまはげも,マレビト信仰の面影を伝えるものである。

写真集「まれびと」の著者・石川直樹さんは、僕が一番影響を受けた写真家だと「この星の光の地図を写す」の書評記事を書いた時に説明した。

石川直樹|「この星の光の地図を写す 」を読んで考えた

僕が写真展をやろうと思った最初の最初のきっかけは、石川さんのワークショップに行って写真のセレクトの視点を学び、東松泰子さんのワークショップに行って写真の現像の方法を学び、あとはよい写真さえ撮ることができれば発表できると思ったから。

写真を撮らなくなっていた僕が、再び写真を撮り始めた理由

そんな石川さんの写真集「まれびと」は非常に大きなサイズの写真集である。

日本列島を北と南に分け、古くから伝わる伝統行事で現れる神や聖人を撮影しており、図鑑のように各地域のまれびとが紹介されていて興味深い。

いつかその地を訪れてみたいと思うような一冊。

「まれびと」に書かれていた言葉を紹介する

僕は本を読んだら気になった文章をノートに書き記す習慣を、もう15年近く続けている。

15年前から私が本を読んだら必ず行っている2つの習慣

インプットの吸収率が圧倒的に上がるし、なにより目に見える形で記録されていくことが自分の自信になる。

本書から気になった文章を紹介する。

ポゼ。吐噶喇列島の悪石島に、年に1度出現する異形の神である。

ポゼは手にマラ棒と呼ばれる男性器を模した棒を持ち、女性や子供たちを追いかけた。マラ棒の先には赤土が塗られていて、その赤土が体につけば無病息災で1年を過ごせるというのだが、子供たちは本気の形相でポゼから逃げ惑っていた。

上の写真がポゼ。
今まで見たこともないような形の神である。
森の中からこの姿が現れたら、それはもう異様な光景だろう。

”下甑島のトシドン。
3体が居間に揃うと、その家の子どもが起立して歌を一曲歌わされ、歌い終わると餅を背中に載せて四つん這いになって運ばなくてはならない。餅を落とすとトシドンに怒られ、最初からやり直しだ。
言葉にならない声をあげながら闇の中を歩くトシドンと、その声が聞こえた瞬間から泣き叫ぶ子どもたちの姿が、今も目に焼き付いて離れない”

 

悪石島のボゼや宮古島のパーントゥはビジュアルが強烈な印象だが、なんと言ってもこの写真集を読んでみて僕が一番気に入ったのは下甑島(しもこしきじま)のトシドン

トシドンの声が聞こえた瞬間から子どもが泣き叫ぶにも関わらず、家に上がり込んでくると一曲歌わされ、餅を背中に載せて四つん這いになって運ばされ、餅を落とすと怒られる。

子どもにとって、その恐怖と非日常体験は一生忘れないだろう。

「まれびと」を読んで思ったこと

南は沖縄や鹿児島の島々、北は東北・北陸のまれびとが紹介されている。
南は人間の体を成していない神が多いように思うし、北はナマハゲのように藁の衣装に身を包んでいるものが多い。
どちらも健康を祈ってはいるものの圧倒的に恐怖感を煽るものが多く、解説を読んでいると子どもは基本的に泣いている(笑)

古くからの伝統が守り伝えられている慣習を、このような写真集として形に残したことに大きな価値がある。

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小学館
この本の評価
面白さ
(4.5)
吸収できた言葉
(4.0)
デザインの美しさ
(4.0)
総合評価
(4.5)

その他の石川直樹さんの写真集を紹介する

まれびとは石川さんが人類学、民俗学などの領域に関心を持っていることを示すような写真集。
同じようなタイプの写真集ならば、世界の様々な土地固有の建築様式をまとめた写真集『VERNACULAR(ヴァナキュラー)』が挙げられる。


VERNACULAR

他にも、ヒマラヤの8000m峰を登って撮影した写真集や、日本を「島の連なり」と考え、南は薩南・沖縄諸島から台湾まで、北は北海道・サハリンからカナダの島まで撮り続けたARCHIPELAGOなんかもあって、旅をテーマに様々なジャンルの写真集を出版し続けている作家だ。

文章も書いているので、文字を読みたい人はそちらもオススメ。
興味があれば、ぜひ手にとってみてほしい。

【写真集】

【文章】

全ての装備を知恵に置き換えること/石川直樹

全ての装備を知恵に置き換えること (集英社文庫)

写真家・石川直樹さんがとても好きなのだが、その石川さんを好きになったきっかけは、この本からだった。
地図やコンパスなどを持たずに夜空に浮かぶ星と地形だけで航海を行うミクロネシアの旅、高校2年生のときに一人で訪れたインドへの旅、北極から南極までを自転車やカヤックなどの人力で移動したPOLE TO POLEの旅、文化も言葉も同じ土地が、国境という線を越えるだけで分断されることを実感させてくれる。

石川さんがまだ20代の頃に訪れた旅について、そして彼が旅を通して感じた世界との繋がりについて書かれているこの本は、写真家が写真では表現しきれない部分を愚直で真っ直ぐな言葉で鮮やかに描いてくれている。

美しいものを懐かしいと思うのは、太古の記憶と自分自身がどこかでつながっているからだろうか。

極北へ 石川直樹


極北へ

写真家・石川直樹の極地の旅にまつわるエッセイ。

全ての装備を知恵に置き換えること」が今までの様々な旅について感じたことを綴っていたのに対し、今作は極北に特化した文章なのもおもしろい。
極北の世界を体感しに行きたくなる。

動物と人間が同じ目線をもち、お互い畏怖の念をもって向き合える大地は、今や希有な存在である。
「はるか昔、人間と動物が同じ言葉を話していた」という先住民の神話はおとぎ話ではなく、畏れるべき存在をもっていた本来の人間の思考から生まれたものだったのだ。眠っていた野生を呼び覚まし、今見ている世界が世界のすべてではないということを思い出すためには自分と切り離されたものとして風景を眺めるのではなく、自分と繋がる環境として地球を感じなくてはならない。

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