美術大学に通っていた同期との出会い
初めて働いた職場には9人の同期がいた。
年齢も性別も出身地も様々だったが、たった1つ「同期である」という共通点が、それぞれの繋がりを強くしているような、そんな関係だった。
僕らは仕事帰りに時々集まってはそれぞれの近況を話し、誰かが結婚したといってはお祝いをし、誰かの家に行ってだらだらと話したりすることもあった。
その中の一人で、アオキさんという男性と仲良くなった。
美術学校で油絵を専攻していた彼は、確か年齢は僕よりも5つか6つ年上で、正義感が強く、いつもなにかにカリカリしていた。
誠実に最後まで仕事に取り組んでは、穴の多い仕事をする同僚たちに「ほんとバカばっかりだよ」と口にすることなんかもあった。
でも僕にとっては、猫好きでよく喋る気のいい奴だった。
**************************
旅のエッセイ:始まりは、いつも外の世界を知ろうとすることからだった
旅のエッセイ①:旅する本に出会った奇跡的な出会いの話
旅のエッセイ②:生まれて初めて映画館で映画を見た記憶
旅のエッセイ③:人と人が繋がる場所は世界中にあったという話
旅のエッセイ④:僕が旅に出る理由
旅のエッセイ⑤:世界一周を終えて3年間旅をしなかった理由と、3年後に旅をして感じたこと
旅のエッセイ⑥:旅について考えてみた。旅に物理的な距離は必要なのか?
旅のエッセイ⑦:「また会おう」と握手した。「元気でいてね」とハグをした。
旅のエッセイ⑧:台湾と聞いて連想する「ツボとハナと夢」
旅のエッセイ⑨:一家の命運を賭けた家族旅行の思い出について語ろう
**************************
主体的に生きている姿を見せてくれたこと
一緒に働いていた期間は4年間くらいだったと思う。
その間に彼とはよく話をした。
僕の家に来たり、彼の家に行ったり、似顔絵をプレゼントしてもらったりなんかもあった。
家を独自でリフォームしたり、肖像画家になるために行動していた彼は、23・4歳の僕にとって、主体的に生きている姿を見せてくれたかっこいい友人だった。
奄美大島にある珍しい名前の島
鹿児島県の奄美諸島に珍しい名前の島がある。
青く透き通った海に囲まれ、陸地のほとんどを深い森に覆われた中に、人口1300人ほどが伝統を継承しながら静かに暮らしている島だ。
出会ってから数年後、僕は世界を旅するため、彼はその島に移住し絵描きになるために、二人はそれぞれ仕事を辞めた。
「島で暮らすのに必要な収入を得る手段」として自分の特技である絵を活かそうと、都会で積み重ねていたことが本当に実現した。
彼は小さな島でネットを使って受注しながら肖像画を描く絵描きになった。
今、僕が積み重ねる経験を楽しいと思えるのは、きっと彼からも大きな影響を受けているように思う。
数年後、僕は世界を旅した後に彼が住む島へ初めて旅をした。
数年ぶりの再会だった。
一緒に勤めていたときには考えられないようなボサボサの髪をした彼は、あの頃よりも穏やかな笑顔を浮かべて僕を出迎えてくれた。
誰もいない静かで青々とした海までは徒歩30秒。
目の前には深い森と山があり、青と緑に囲まれた小さな集落。
まるで時間が止まっているかのような錯覚を起こす程にのどかな場所で、温かい人々に囲まれながら自然と共に暮らしていた。
本当に一人で、都会から山奥の小さな集落に移住していた。
奄美大島で暮らす絵描きの未来
移住した当初住んでいた古い家は、過去数十年間で最大級という大型台風の影響で屋根が吹っ飛ぶという事件があった。
ガスも風呂もない生活を選んでいるので、いちいち薪で火を炊いて調理をしたりお湯をためている。
ガリガリの文化系の彼が、集落の伝統行事に参加し、一年に一度豊年を祝うために廻しをつけて相撲をとる。
短い滞在期間の中で見た彼は、都会で暮らすどの彼とも異なっていたが、なんだかいきいきと暮らしていた。
なにより、あんなにカリカリしていた彼が、とても穏やかな顔で日々を過ごしていた。
彼は今日も青い空の下で、大好きな猫に話しかけながら暮らしているのだろうか。
そうだといいなと思う。
あ、そうそう。
彼は今、ミュージシャンにもなっている。ゲストハウスも作った。
不思議な男だ。
**************************
旅のエッセイ:始まりは、いつも外の世界を知ろうとすることからだった
旅のエッセイ①:旅する本に出会った奇跡的な出会いの話
旅のエッセイ②:生まれて初めて映画館で映画を見た記憶
旅のエッセイ③:人と人が繋がる場所は世界中にあったという話
旅のエッセイ④:僕が旅に出る理由
旅のエッセイ⑤:世界一周を終えて3年間旅をしなかった理由と、3年後に旅をして感じたこと
旅のエッセイ⑥:旅について考えてみた。旅に物理的な距離は必要なのか?
旅のエッセイ⑦:「また会おう」と握手した。「元気でいてね」とハグをした。
旅のエッセイ⑧:台湾と聞いて連想する「ツボとハナと夢」
旅のエッセイ⑨:一家の命運を賭けた家族旅行の思い出について語ろう
**************************