【旅のエッセイ】ネパールのチトワンからポカラへ移動しているバスで出会ったおまじないの話

おまじないって信じるだろうか?

ジェイソン・キッドというNBAを代表する選手がいたのだが、彼はフリースローを打つときにルーティーンとしてリングに向かって投げキスをしてから打っていた。

「入れよ」みたいなおまじないは、愛する奥さんへ向けて、投げキスをしていたようだ。

サッカーでも、ゴールを決めた選手が、よく左手の薬指にキスをしている。
南アフリカW杯でも、日本代表の遠藤選手もゴールを決めた後に左手にキスしていたことを覚えている人もいるだろう。

今回は、僕が旅先のネパールのバスで出会ったおまじないについて話そうと思う。

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旅のエッセイ:始まりは、いつも外の世界を知ろうとすることからだった
旅のエッセイ①:旅する本に出会った奇跡的な出会いの話
旅のエッセイ②:生まれて初めて映画館で映画を見た記憶
旅のエッセイ③:人と人が繋がる場所は世界中にあったという話
旅のエッセイ④:僕が旅に出る理由
旅のエッセイ⑤:世界一周を終えて3年間旅をしなかった理由と、3年後に旅をして感じたこと
旅のエッセイ⑥:旅について考えてみた。旅に物理的な距離は必要なのか?
旅のエッセイ⑦:「また会おう」と握手した。「元気でいてね」とハグをした。
旅のエッセイ⑧:台湾と聞いて連想する「ツボとハナと夢」
旅のエッセイ⑨:一家の命運を賭けた家族旅行の思い出について語ろう
旅のエッセイ⑩:初めて働いた職場で出会った絵描き
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チトワンからポカラへの移動

ネパールのチトワンからポカラへと向かう移動は、小さなマイクロバスでの移動だった。

バスには運転手のほかに乗務員としてトピー帽をかぶった彫りの深い男性が乗っていて、チケットをチェクしたり、荷物を上に積んだりと作業をしている。

予定時刻よりも少し遅れてバスは出発したのだが、のろのろと当てもなく走っているように感じられ、なかなかスピードが上がらない。
なんでこんなに遅いのだろうと思っていると、トピー帽をかぶっだ乗務員は、入口のドアを開けながら道行く人に「ポカラポカラ!」と声をかけていく。

どうやらバスにもっとお客を詰め込みたいらしい。

満席を超えて立ち席がでても乗務員は声をかけ続け、30分くらい経ってようやくバスは快調に走り出した。

突然停止したバスの目的

出発から数時間が経ったところで、バスは急に停車した。

休憩所に着いたのかと思い窓の外を見やるも、どこにもレストランやトイレが見当たらない。そこには民家がポツンとあるだけで、上半身裸姿で白髪の老人が古びた家の前に座っている。

突然止まったバスに疑問に思ったのは僕だけではないようで、他の乗客も窓の外を見ている。

すると、運転手が慌てたように急いでバスを降りていった。

なんだろうと、運転手の様子を注視していると、家の前に座っている老人と身振り手振りを交えて交渉をしているように見える。
言葉はわからないが、なにかを老人にお願いしている雰囲気が伝わってくる。

トイレでも借りたいのだろうか。

しばらく経って交渉が終わったのか、老人が立ち上がると、運転手の表情は嬉々としているように見えた。

上半身裸姿の老人がとった行動

立ち上がった老人は、色黒ですらっとした体つきをしており、上半身は裸姿で、下半身は白い布のような腰巻きだけを纏っている。

運転手の熱意が伝わったのか、老人は運転手と一緒にバスの前へ歩いていった。

なにかが起こる予感がして、僕はバスを降りて、その様子を見に行くことにした。
子どもたちが、突然止まったバスに何事かと集まってくる。

すると突然、上半身裸姿の老人はどこに持っていたのか、指先に赤い絵の具をつけ、バス車両の前面に指で絵を描きはじめた

展開についていけない僕は、慌てて運転手の表情を確認すると、ニコニコと頷いている。

え、これ正解なの?

その後も上半身裸姿の老人は、バスの正面になにかのマークのような絵を描いていった。

きっとこれは「事故にあわないように」みたいな、おまじないのようなものなのだろう。

運転手の男性は嬉しそうな表情が印象的だった。

おまじないの後で

車両前面を描き終えた上半身裸の老人は、今度は車内に入っていった。
運転手の男性は、完成した車両の前面をウンウンと頷きながら眺めている。

老人が次になにをするのかが気になって僕も車内に戻ると、上半身裸の老人が運転席に入り、ハンドルやクラッチレバーに、尋常じゃない量の絵の具をべたりと塗っていった。

え、これ正解なの?

と、もちろん疑問はわいたが、きっとこれも正解なんだろう。

バスが事故に合わないように、老人は精一杯のおまじないをし、運転手はニコニコと微笑みながら、僕たちを無事にポカラへ届けてくれるはずだ。

老人は大量の絵の具を運転席に塗ると、スタスタとバスの車内を降りて行った。

それと入れ替わるようになにも知らずに運転席に座った運転手が、バスを走らせようとハンドルやクラッチのレバーを握ると、そこには尋常じゃない量の絵の具が塗ってあり、もちろん運転手の手にたっぷりとついた。

さて、どうなるだろうと注視していると、運転手は大量の絵の具に顔をしかめていた。

ですよね、これは正解じゃないですよね。

運転手の男性はその後、何度も何度も手をぬぐっては自分のズボンでゴシゴシと拭いていたが、一向にハンドルから絵の具がとれる気配もなく、ズボンだけがどんどんと赤く染まっていった。

その後、さっきまでの嬉々とした表情が嘘のように、運転手は何度も首をひねりながらズボンに手の絵の具を拭いていった。

とりあえず無事にポカラまでたどり着いたので、運転手の汚れたズボンと引き換えに、おまじないの効果はあったということだろう。

ちなみにフリースローの時にリングに向かってキスをすることで有名なNBA選手のジェイソン・キッドは、愛する奥さんと離婚してしまって、フリースローの前に投げキスをしなくなった。

切な過ぎる。

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旅のエッセイ:始まりは、いつも外の世界を知ろうとすることからだった
旅のエッセイ①:旅する本に出会った奇跡的な出会いの話
旅のエッセイ②:生まれて初めて映画館で映画を見た記憶
旅のエッセイ③:人と人が繋がる場所は世界中にあったという話
旅のエッセイ④:僕が旅に出る理由
旅のエッセイ⑤:世界一周を終えて3年間旅をしなかった理由と、3年後に旅をして感じたこと
旅のエッセイ⑥:旅について考えてみた。旅に物理的な距離は必要なのか?
旅のエッセイ⑦:「また会おう」と握手した。「元気でいてね」とハグをした。
旅のエッセイ⑧:台湾と聞いて連想する「ツボとハナと夢」
旅のエッセイ⑨:一家の命運を賭けた家族旅行の思い出について語ろう
旅のエッセイ⑩:初めて働いた職場で出会った絵描き
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