この記事では、「旅とはどういうものか?近い距離の場合でも旅というのか」という考えについて、エッセイにしています。
友人が6年間気になっていた近所の古びた居酒屋に入り、そこでいろいろな出会いがあった話をしてくれました。
僕はその話を聞いて、「旅してるな」と思ったのですが、今回はそんなことを綴っています。
「旅のエッセイ」をカテゴリーで分類していて、旅の体験から得た自分なりの考えを物語にして書いています。
目次
【旅のエッセイ】旅とはどういうものか?について考えた
以前、トークイベントで登壇した際に、「旅の定義」について話題になったことがありました。
「物理的な距離がないと旅とは言えないのか?」
「近所の居酒屋へ行き、新しいことに出会うことは、旅になり得るのか?」
「修行中の寿司職人が、包丁を研ぎながら自己を見つめている。それは、精神的な旅をしているとはいえないのか」
そんな話だったと思います。
旅から学びや気づきをもらえる機会は多くあります。
「世界一周旅行で出会ったジョージ・オーウェルの1984年」という記事では、「出会ったことで想像することができる」ということを書いたし、「マサイ族の男性から教えてもらった世界の真実についての話」という記事では、「ここでうまくいかなくなっても世界のどこかは自分を受け入れてくれる」という安心感をもらうことができる、ということを書きました。
冒頭のトークイベントでの問いについてですが、個人的には、近所の居酒屋に行って新しいことに出会うことは旅と言っていいように思います。
自己を見つめる旅も、まあ広義で考えれば旅と言っていいでしょう。
「それはちょっと違うよ」という意見があることも理解できますが、僕の個人的な感覚としてはそんな感じで、自分の知らなかったことや体験してこなかったことに向き合うことは、やっていることが旅の要素に満ちているように感じるからですね。
物理的な距離が伴わなくても、そこにチャレンジや気づきが備わっていれば旅をしているように感じます。
その考えに至ったのは、友人が体験した話が背景にあるからです。
【旅のエッセイ】旅とはどういうものか?初めての体験は旅と言える?
とある街に住んで6年が経った女性がいました。
僕の友人で、2o代後半のとても美しい女性です。
最寄り駅から自宅までの道に、寂れた赤提灯がぶら下がった1軒の大衆居酒屋があって、彼女はその店の前を通るたびにずっと気になっていました。
外からうっすらと見える店内は、カウンター席しかなく、ママが1人で切り盛りしている昔ながらの小さな居酒屋という雰囲気で、その友人が女性ひとりで気軽に入るには少々気がひけるようなお店でした。
ただ、彼女はある日に突然その6年間の沈黙が嘘のように、お店の暖簾をくぐることになります。
彼女は、新しい職場への異動があって、慣れない人間関係にどうにもモヤモヤしていました。そんな職場からの帰り道、なにかに導かれるように、6年間気になりながらも立ち入ることのなかった赤提灯のお店に足を踏み入れていたんですね。
カウンター越しに目があったママは、若くてきれいな女性が1人で入ってきたことに一瞬驚いた様子を見せたものの、「いらっしゃい」と声をかけました。
店内には常連らしい初老の男性が1人いて、ママと楽しげに話をしていました。
友人と常連客の目が合うと「おう、こんな若い子が1人で来るなんて珍しいね」と声をかけられました。
「初めてなんです」
友人は少し離れた席に座り、おしぼりで手を拭きながら常連客に目を向けると、「なに飲みます?ビール?」と、カウンター越しにママは注文を尋ねたのです。
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彼女はビールを飲みながら小皿をつまんでいました。
温かい家庭料理が優しい味で、心身ともに疲れていた体に染み渡るようです。
ママを口説こうと必死な初老の男性。
くたびれたサラリーマン。
恋人募集中だというおじさん。
次々とやってくる個性豊かな常連客に声をかけられ続けるうちに、なんだか自分が初めてこの店を訪れたことが信じられないような不思議な感覚をもつように友人はなっていきました。
ママは彼女が初めてきた記念だと早々に店を閉めて、そのまま近くのスナックへ一緒に行くことを彼女に提案してきました。
普段の彼女なら間違いなく断りそうなその提案を、どういうわけか受け入れ、生まれて初めてスナックに行ったのです。初めて会った、個性豊かな面々とともに。
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12時をまわった帰り道。
肌寒くて澄んだ空気の夜道を歩いていると、店に入る前に感じていたモヤモヤが不思議と晴れているような感覚を覚えていました。
新しい場所での一期一会の出会い。
来た時よりもほんの少しだけ気持ちが軽くなっているような気がしている。
彼女は、まるで旅をしたときのように、夜空を見上げながら帰り道をただただ歩きました。
【旅のエッセイ】旅とはどういうものか?日常から非日常へと変化する瞬間
僕はこの話を聞いたときがちょうど第1回のタビノコトバを企画していたときで、まさにこんな話が応募されると、この企画は面白くなるだろうと思っていたところでした。
どこかに行ったとか、なにをしたとか、そんなことではなくて、「物理的な距離に関わらない旅」の話を読みたかったんですね。
友人がこの話を書くことはありませんでしたが、僕にとってはとても印象深く、旅ってこういうことも含めるよなと確信をもったキッカケにもなりました。
旅に物理的な距離は必ずしも必要なわけではないと思っています。
そんなことを考えていたときに巡り会った話です。
彼女が一歩を踏み出した瞬間。その刹那、彼女の日常は非日常へと旅をしたのだと思います。
【旅のエッセイ】旅とはどういうものか?旅に必要な要素
僕はこの経験から、旅に必要な要素を挙げるならば、「自分の安全圏から一歩を踏み出す」と、それは旅であると考えるようになりました。
自分の日常空間から非日常空間へと踏み出した瞬間に、その行為は旅になる。
旅をするように生きるとはまさにそういうことで、ずっとどこかに移動し続けるというよりも、ずっとなにかに挑戦し続けることという方がしっくりときます。
「始まりは、いつも外の世界を知ろうとすることからだった」という記事でも書きましたが、外の世界を見ることで、中の世界を探すことができます。
僕にとっては、それがとても楽しいことでもあるわけで、友人の体験を聞き、様々な刺激を受け入れて一歩を踏み出すような生活をしていきたいと強く思った話でした。
旅のエッセイまとめ
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旅のエッセイ:始まりは、いつも外の世界を知ろうとすることからだった
旅のエッセイ①:旅する本に出会った奇跡的な出会いの話
旅のエッセイ②:生まれて初めて映画館で映画を見た記憶
旅のエッセイ③:人と人が繋がる場所は世界中にあったという話
旅のエッセイ④:僕が旅に出る理由
旅のエッセイ⑤:世界一周を終えて3年間旅をしなかった理由と、3年後に旅をして感じたこと
旅のエッセイ⑥:旅について考えてみた。旅に物理的な距離は必要なのか?
旅のエッセイ⑦:「また会おう」と握手した。「元気でいてね」とハグをした。
旅のエッセイ⑧:台湾と聞いて連想する「ツボとハナと夢」
旅のエッセイ⑨:一家の命運を賭けた家族旅行の思い出について語ろう
旅のエッセイ⑩:初めて働いた職場で出会った絵描き
旅のエッセイ⑪:ネパールのチトワンからポカラへ移動しているバスで出会ったおまじないの話
旅のエッセイ⑫マサイ族の男性から教えてもらった世界の真実についての話
旅のエッセイ⑬高校を卒業し、実家を出て一人暮らしを始めた日のこと
これまで世界50カ国以上旅をしている僕が、オススメのトラベルグッズ9選を紹介する
僕が企画しているタビノコトバについて
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