キューバの旅を終えようとしている今の気持ち
2016年に一度キューバを旅した。
そして2019年の今、僕はキューバの旅を終えるその前日にこの文章の大筋を書いている。
(※日記の更新は帰国後にしました)
2016年に旅した時は、思う存分写真を撮ることができなかった。
外国人旅行者急増によるバスチケットがない問題(遠くの町に移動しようにもバスは最短で5日後だったりした)、大雨が4日間ほとんど止むことなく降り続けた天候不良問題が重なり、旅の中であまり写真を撮ることができなかった。
どうにも撮り終えられた感がないまま、そこで撮れたいくつかの作品を公募展に応募し、運良く採用されることができた。
ただ、10枚ならば発表できそうだが、40枚を発表しようとしたときに、自分が納得いくような作品群を作るには物足りない。
正直なところ、そんなことを感じていた。
このままでは残尿感というか、もうちょっと撮れるんだけどなあという思いを抱えたままキューバの旅写真を終えることになる。
キューバの写真をここで昇華するために再びキューバを旅し、思う存分写真を撮って発表したい。
そうすることで、ようやくキューバの写真を終えて次の写真へと進むことができる。
そんなことを考え、妻にはわるいがもう一度一人でキューバを旅させてもらった。
それは、僕にとって初めて「写真を撮るための旅」だった。
写真を撮るための旅ってなんだろう?
僕はこれまで何度も旅をしてきた。
きっと旅の経験値で言えば、かなり高いほうだと思う。
そんな僕にとって、今回は初めての「写真を撮るための旅」だった。
写真を撮る旅ってなんだろう?
これまで旅をしてきたときも、いつも写真を撮っていた。
1年半をかけて世界を巡っていたときも写真を撮っていたし、2015年のラダック、2016年のキューバの旅も、もちろんたくさんの写真を撮った。
それらはすべて「旅をしながら、写真を撮っている」という意識だった。
だから、自分の行こうと思った観光地へ行くし、見たい所へ行くことが自然と優先された。
今回の旅がそれらと決定的に違うのは「写真を撮るために、旅をした」という意識だった。
その結果として起こった行動は、町の中をいつも以上に歩き、同じ場所を時間を変えて訪ね、観光地へは行かなかった。
キューバで過ごした1日の流れを紹介する
きっと今回の旅での時間の過ごし方を紹介すればわかりやすいと思う。
朝、日の出の前に起きて天気を伺う。
朝の光とともに町を散策する。
光が当たる場所の影と光は美しいが、そんな特別な時間は非常に短い。
少ない時間で様々な場所を撮影しようと、町の中を小走りで駆け回る。
灼熱のキューバといえどこの時間はまだ涼しく、走る余裕がある。
光を追いかけて様々な場所を歩き、一旦宿へ戻る。
宿でしばらく休憩した後、午前の町を歩く。
この頃には日差しが強く、歩いているだけで汗だくになる。
朝の喧騒や町の様子をくまなくチェックし、写真を撮っていく。
宿に戻って汗だくになった体を水シャワーで冷ます。
13時頃に午前とは異なる場所を歩く。
日差しがとにかく強く、歩いているだけでかなり消耗する。
ただ、歩けば歩くだけ様々な光景に出会う。
歩いた数に比例するように撮った写真の数は増えていった。
日中の光は写真を撮るには少々強すぎるので、1時間半ほどで切り上げて宿に戻る。
部屋に戻るとフラフラになっており、水シャワーを浴びてベッドに横になると気がついたら寝ていることが多かった。
夕方は午前と午後の撮影で気になった場所をもう一度訪れることが多かった。
日中と夕方は同じ場所でも景色が異なって見える。
この時間が1日で最も極上な時間。夕方の光が好きだ。
暗くなったところで1日が終わる。
日本がちょうど朝を迎える頃なので、1日の終わりの楽しみに、家族とFace Timeで話をする。
まるで仕事をしているかのようにそんな毎日を勤勉に続けた。
観光地には行かなかった。行きたいとすら思わなかった。
ただ、自分で決めたテーマのもと、写真を撮るために町を歩いた。
それが心を満たし、それをしたいと思った。
写真を撮るための旅を通して
旅写真を撮るにあたって、歩くことは最大の武器のように思う。
だから、とにかく歩いた。
同じ場所も時間を変えて何度も行ってみた。
僕が行ったサンチアゴデクーバやパラコアという町では日本人と会うことが1度もなかった。
僕は旅の間、ずっと一人で写真を撮り続けた。
こんな旅をしてみたいと思う人は少ないだろう。
こんな旅が魅力的だと思う人は少ないだろう。
だけど、僕にとってはとても充実した旅だった。
6000メートルを登ったラダックの旅に似ていると思った。
今回の旅は行く前から修行の要素が強いと思っていて、それを実践することができた。
だって、レジャーとしての旅先という観点からは、キューバは最早全く興味がなくて、行きたいとすら思わなかったのだから。
帰国の途につくサンチアゴクーバーの空港へはバイクの後ろに乗って向かった。
気だるい風に吹かれながら、青い空と白い雲と、僕が撮ったたくさんのキューバの景色を眺めた。
ここにはもう二度と来ないかもしれない。
僕の未来を開いてくれた景色にありがとう、ありがとうと何度も呟いた。
旅を終えた今。
コツコツと積み重ねた写真と、歩き続けた日々を誇らしく思う。
そして、そんなワガママを応援してくれた家族にとても強く感謝している。
妻と娘の支えがなかったらこんな体験はできなかったのだから。
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【後日談】
その後、キューバで写真を撮る旅をし、写真展を開催することになり、写真集を出版することになりました
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旅のエッセイ:始まりは、いつも外の世界を知ろうとすることからだった
旅のエッセイ①:旅する本に出会った奇跡的な出会いの話
旅のエッセイ②:生まれて初めて映画館で映画を見た記憶
旅のエッセイ③:人と人が繋がる場所は世界中にあったという話
旅のエッセイ④:僕が旅に出る理由
旅のエッセイ⑤:世界一周を終えて3年間旅をしなかった理由と、3年後に旅をして感じたこと
旅のエッセイ⑥:旅について考えてみた。旅に物理的な距離は必要なのか?
旅のエッセイ⑦:「また会おう」と握手した。「元気でいてね」とハグをした。
旅のエッセイ⑧:台湾と聞いて連想する「ツボとハナと夢」
旅のエッセイ⑨:一家の命運を賭けた家族旅行の思い出について語ろう
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