この記事では、フォトグラファーの僕がオススメする「写真家が書いた旅本やエッセイ本」から面白かった本7冊を紹介しています。
写真家の写真集ではなく、文章を中心とした書籍となります。
写真家が書く本は情景描写が繊細で情緒的なのが特徴で、不思議と澄んだ気持ちになって読める本が多くあります。
ある写真家が「写真家とは視る仕事だ」と言っていましたが、人よりも高い解像度で世界をより鮮明に視ている写真家ならではの視点が、文章を美しくさせているのかもしれません。
そんな『写真家が書いた本』の中から厳選7冊を紹介します。

目次
本好きフォトグラファーが本当に面白い本を紹介
SOGEN
今回は、そのシリーズ第1弾「写真家が文章を書いた本」について紹介します。
「写真家が出版した写真集」ではなく、「写真家が文章で表現した本」です。
いやいや、写真集を紹介してよ!と思う方は、以下の記事でオススメの写真集を詳しく紹介しているので、参考にどうぞ。


写真家が書いた本の特徴|写真家の本が面白い理由
???
そうですよね、本業の写真集ではなく、文章で表現した本を紹介するのも、ちょっとおかしい話ですよね。もちろん、これには理由があります。
「写真家とは、見る仕事だ」と言った方がいました。
そこにぼんやりと存在する物事や心象を深く見ることで、その対象物を撮影する仕事が「写真家」ですよね。
ぼんやりと見ているだけでは流れていってしまう瞬間を見留めることから写真家の活動はスタートする、そんな話をしてくれました。
個人的には、写真家の書く文章はとても心に響く作品が多くあります。
それは、写真家の特性である「物事を見る力」が備わっているからでしょう。
よく見ることで、よく考えるようになり、それを表現する。
同じ風景を共有していても、より鮮明な解像度で見ることで、心象をより深く感じることができるというわけです。
これから紹介する写真家が書いた文章を、ぜひ読んでみてください。
「写真家が書いた本」からオススメの7作品を紹介
1.
ライド・ライド・ライド/藤代冥砂
SOGEN
写真家の藤代冥砂さんは、まだ何者でもなかった若かりし頃に、世界中を旅した。
飛行機に乗り、バスに乗り、女に乗る。
愛する人と出会い、愛した人と別れ、また愛する人と出会った。
美しい景色の話など、なにひとつ書かれていない。
いろいろな人と出会い、心の浮き沈みを体験し、移動することこそが彼にとっての旅なのだ。
そして、その数年後、藤代さんは日本で結婚することになる。
愛する妻と結婚した様子を撮影した「もう、家に帰ろう」では達観したような、優しさに包まれた文章を書いた。



そんな藤代さんからはあまり想像できないちょっぴりセンチメンタルな描写も、若さと捉えればこの時期にしか書くことが出来ない特別な文章なのだと納得できる。
もしかすると、僕が世界で一番好きな本はこの本かもしれない。
ライド・ライド・ライドに書かれた名言
ペギーと交わしたキスは最後のキスだ
あの、サイゴンでの十日間がなかったら、私の旅はもっと早くに終わってしまったかもしれない。つまり、生きることの意味の半分を失うことになっていただろう。そうだったとしたら、意味が半分しかない人生はどんなふうにすぎていったのだろう。
静脈を震わす青さに満ちた明け方の五分を知っていたとしても、ギターアンプから初めて音を出した時の喜びを知っていたとしても、それはとるに足りないことだ。どうでもいいことだ。
藤代冥砂さんのオススメの写真集を紹介
2.
全ての装備を知恵に置き換えること/石川直樹
SOGEN
僕は写真家の石川直樹さんがとても好きなのだけれど、その石川さんを好きになったきっかけは、この本からだった。
地図やコンパスなどを持たずに夜空に浮かぶ星と地形だけで航海を行うミクロネシアの旅、高校2年生のときに一人で訪れたインドへの旅、北極から南極までを自転車やカヤックなどの人力で移動したPOLE TO POLEの旅、文化も言葉も同じ土地が、国境という線を越えるだけで分断されることを実感させてくれる。
現在もなお旅を続けている石川直樹さん。
その旅は、垂直方向は8000メートルを超える山々であり、水平方向では北極や南極も都市も全てが旅の対象として活動している。
石川さんがまだ20代の頃に訪れた旅について、そして彼が旅を通して感じた世界との繋がりについて書かれているこの本は、写真家が写真では表現しきれない部分を愚直で真っ直ぐな言葉で鮮やかに描いてくれている。
僕は人が毎日を過ごしていく中で、ある出来事からふと感じる意識や気づきの部分をおもしろいと感じる。
この本には、そんな体験がつまっている。
旅を通して人が学んでいくことについて考えさせられる一冊。
ライド・ライド・ライドに書かれた名言
「全ての装備を知恵に置き換えること」の続編となるような「極北へ」については、豊作だった2018年のおすすめ本記事で詳しく解説しているので、参考にどうぞ。

また、石川直樹さんの本の書評記事もあるので、ぜひ読んでみてください。



3.
旅をする木/星野道夫
SOGEN
アラスカを愛し、アラスカに愛された写真家・星野道夫さんの代表作が「旅をする木」だ。
アラスカの絶対的な自然
太古の昔から変わることがないカリブーの大移動
人々が語り継いできた神話の世界
芯に刺さる言葉を持ったブッシュパイロット達
クジラやシロクマたちの不思議な行動
短い夏や長い冬の間に彩る春や秋の美しさと季節の移り変わり。
それらを温かく優しい言葉で、星野道夫が紡いでくれている。
この本を読んだ以前とこの本を読んだ以後で、なにかが変わった。
もしかすると、大袈裟ではなく、そういった人は多いのかもしれない。
ある人は仕事を辞めたかもしれないし、ある人は日常の尊さに気がついたかもしれない。
ある人は旅立ったのかもしれないし、ある人は日々の些細な変化に目を向けるようになったのかもしれない。
僕にとって旅をする木は、この世界を旅しようと思ったキッカケになった一冊である。
『旅をする木』に書かれた名言
その回数を数えるほど、人の一生の短さを知ることはないのかもしれません。
アラスカの秋は、自分にとって、そんな季節です。
時が過ぎていく儚さをここまで完璧に表現する文章を、僕は他に知らない。
この文章に出会えただけで、この本に出会えてよかったと思える。
星野道夫の旅をする木に、栞はいらない。どこから読んでもいいし、読まなくてもいい。
いつ止めてもいいし、何度読んだっていい。
星野道夫は、いつだって大切なことを伝えてくれる。
そして、大切なことは何度でも、伝えてくれる。
あなたが読みたいときに、読みたいページから読むことをオススメする。
アラスカの雄大な自然と星野さんの言葉を楽しんでみてほしい。
星野道夫さんについては、以下の記事で詳しく解説しているので、参考にどうぞ。



4.
旅情熱帯夜/竹沢うるま
SOGEN
写真家の竹沢うるまさんが世界一周の旅をした際の写真や言葉をまとめた一冊。
竹沢うるまさんの書く文章や、些細な光を写し出す写真は、多くの人が何気なく見過ごしてしまう日常の出来事に、彼が気づき、足を止め、切り取っているからなのだと気づかせてくれる。
彼の著書を読むだけで、旅を通して自分との対話を特に深くしているのがわかる。
旅を追体験できるような、そんな一冊。
ちなみに世界一周の旅で、写真に特化した著書は「Walkabout」で、文章に特化した著書は「The Songlines
」で読むことができる。
どちらもとても素晴らしい作品なんで、ぜひ読んでみてほしい。
旅情熱帯夜に書かれた名言
列車をいくつも乗り継ぐと、その先に自分の知らない世界があり、またさらにバスを乗り継ぐと、どこまでも行くことができる。
山を越え、海を渡り、砂漠を歩き、川を下る。
そこには見知らぬ人々が住んでいて、聞き慣れない言葉を話し、不思議な伝統とともに生きている。
そこに知らなかった価値観があり、幸せがあり、また危険がある。
それをひとつひとつ経験して、一歩ずつ進む。
そんな冒険譚を、話したくなった。
「旅情熱帯夜」については、「オススメの旅本」の記事で詳しく解説しているので、参考にどうぞ。

5.
父の感触/小林紀晴
SOGEN
ASIAN JAPANESE―アジアン・ジャパニーズ〈1〉で有名な小林紀晴さんは、「写真学生
」という自伝的小説も書いていて、文章を得意とする写真家である。
小林紀晴さんについては、オススメの現代小説でも紹介しているので、参考にどうぞ。
1400冊以上の本を読んできた僕が、本当にオススメする『小説』25選
心からおすすめのノンフィクション本15冊【事実は小説より奇なり】
これまで読んできた1400冊を全て記録している僕が、本当にオススメする「ルポタージュ」13選
乾いた文体で淡々と進んでいく描写の中で、ふと心が揺さぶられる感覚を感じる。
モラトリアム期の「なにものかになりたいけれど、どうしようもない悶々とした感情」を表現することが本当に上手な写真家だ。
「父の感触」は、二つの場面が行き来して進んでいく。
ニューヨークでテロが起きた9.11の瞬間にニューヨークにいた筆者の喪失と、父の死にともなう喪失。
二つの喪失を通して筆者が語ること。
小林さんの文章は、心の隙間にひどく響く。
『父の感触』に書かれた名言
なのにYさんはそのことに気がついていないかのように、お母さんのことをしきりに心配している。
人は人を想い、人を案ずる。
6.
そして、僕は旅に出た/大竹英洋
SOGEN
だれもが、何者でもなかった頃。
一人の偉大な写真家は、写真家に憧れるただの旅人だった。
導かれるようにノースウッズの森にたどり着き、人々と出会い、写真を撮る楽しさを感じていった著者。
大きな流れに乗ることで、偶然が必然であるかのような不思議な出会いがやってくる。
そんなことを感じさせる一冊。
そのノースウッズの森をまとめた写真集「ノースウッズ─生命を与える大地─」を合わせて読むと、大竹さんの苦悩や息遣いよりリアルに感じることができる。
『そして、僕は旅に出た』に書かれた名言
わたしは、そんなきみの視線がとても好きだ。
「そして、僕は旅に出た」については、2018年に読んだ本の中からオススメ第四位にランクしているので、参考にどうぞ。
【2018年】本当に読んでよかったオススメ本ランキング11
7.
なんで僕に聞くんだろう/幡野広志
SOGEN
著者の幡野広志さんは、写真家で元狩猟家でガン患者なのだが、タイトルの通り「なんで僕に聞くんだろう?」と思うような質問が多数寄せられていく。
不倫をしています、親と折り合いがよくありません、虐待を受けています、親を説得して一人旅に出たいんです…
多様な質問に、幡野さんが新しい視点を加えながら答えていく本書は、きっとあなたの思考を広げてくれる。
『なんで僕に聞くんだろう』に書かれた名言
でもここ1年でたくさんの人とお会いしたり、メッセージやメールなどのやりとりをしたりして感じたことなのですが、本当にコミュニケーション能力が低い人というのは、相手との距離感が遠い人ではないんです。相手との距離感が近すぎる人のほうが、むしろコミュニケーション能力が低い人なんだとおもうようになりました。
親はもちろん、周囲の人間全員にいい顔してもらうことなんて不可能なの。そんなことよりも自分がいい顔になることを考えなくちゃ。
目的地に行くことが旅ではありません、出発地から乗り物に乗って、出会った景色や食べたご飯、感じたこと、無事に帰宅するまでを描いた線が旅なんです。だからおなじ目的地でも、まいかい違う旅になります。だから旅はたのしいの。
しあわせの価値観をいちばん押し付けてくるのが、親だったりします。子どものしあわせに向かって親が伴走するならいいんだけど、子どもの首に縄をつけて引きずりまわす親はわりといる。でもそんなことをすれば、子どもは自分のしあわせを捨てて、親の顔色をうかがうだけです。
重たい内容もあって、一気に読むと少し疲れるので、少しずつ、あなたが読みたい時に読むことをオススメします。
「なんで僕に聞くんだろう」の続編である「他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。 なんで僕に聞くんだろう。」についての紹介記事があるので、参考にどうぞ。



写真家が書いた本の紹介記事 まとめ
写真家が書いた文章は、感情を揺さぶられる作品が多くあります。
今回紹介した写真家たちは藤代冥砂、石川直樹、星野道夫、竹沢うるま、小林紀晴、大竹英洋、幡野広志ととても豪華なメンバーです。
ここで紹介した写真家は文章もよく書いているので、今回紹介した本以外にも読んで頂ければ嬉しいです。
それは、写真家が普段では見過ごしてしまうような決定的瞬間に目を留め、写真に撮る作業をしているから。
写真に撮っていた作業を、作業を文章に起こすだけで、やっていることが似ているからに感じます。
大切なことは、撮りたい(書きたい)と思った被写体に気づくことですよね。
その表現方法がカメラなのか、文字なのかの違いなのだから、確かにいい文章を書く要素は揃っているのかなと感じます。
写真家の文章作品。
ぜひ読んでみてください。
写真や本をプレゼントとして贈る
写真家の写真は、大切な方へのプレゼントとして贈っても、とても喜んでもらえます。
僕自身も「星野道夫さんの旅をする木」は大切な友人へプレゼントとして贈って喜んでもらった経験があって、とてもいい思い出になっています。
家族や子どもには写真をプレゼントとして贈るのもいいですね。
「モノより思い出。」という名コピーがありましたが、一緒に過ごした時間を大切なものと捉え、思い出を写真にしてプレゼントすることは、子どもや家族にとっては「自分との思い出を大切にしてくれた」と感じられて、とても喜ばれます。
僕はフォトグラファーとして写真や動画を撮影することが多くありますが、撮影現場はとてもハッピーな空間なことが多いですし、撮影した写真をお渡しするときにはとても喜んでもらえます。
オススメの写真のプレゼント5選を紹介した記事があるので、たくさん撮影したたまった写真を家族へプレゼントしたいと思った方はぜひ読んでみてください!
1500冊読んだ本から本当に面白い本まとめ
これまで読んできた1500冊を全て記録しています。
その中で本当に面白いオススメ本をジャンルごとに紹介していく記事を書いています。
今回は、そのシリーズ第1弾「写真家が書いた本」でした。
様々なジャンルのおすすめ本を紹介しています。本が好きな方はぜひ読んでみてください
【本当に面白い本をジャンルことに紹介した記事】

- 第1弾:本当に面白い「写真家が書いた本」
- 第2弾:本当に面白い「エッセイ」
- 第3弾:本当に面白い「サッカー本」
- 第4弾:本当に面白い「旅の本・紀行文20冊」
- 第5弾:本当に面白い「ルポタージュ」
- 第6弾:本当に面白い「日本の現代小説」
- 第7弾:本当に面白い「家族愛を感じさせる写真集」
- 第8弾:本当に面白い「旅をテーマとした写真集」
- 第9弾:誰かに贈りたくなるプレゼント本50冊
- 第10弾:オススメの伊坂幸太郎作品ランキング・トップ10
- 第11弾:「アラスカを旅した写真家・星野道夫の魅力とオススメの本」
- 第12弾:本当に面白いシリーズ本「就職しないで生きるには」
- 第13弾:本当に面白い「ぶっ飛んでる人のノンフィクション本」
- 第14弾:本当に面白い「3歳におすすめの絵本」
- 第15弾:探検家・角幡唯介のオススメ本10選と3つの魅力
- 第16弾:本当に面白い「ノンフィクション本」
- 第17弾:本当に面白い「村上春樹のおすすめエッセイ5選」
- 第18弾:本当に面白い【本がテーマの本15選】
- 番外編:本当に面白い映画12作品