これまで読んできた1400冊を全て記録している僕が、本当にオススメするエッセイ本11選

この記事では、「心からオススメできるエッセイ」を11冊紹介しています。
筆者の身近なことが書かれているので、軽く本を読みたい方には特にオススメのジャンルです。

 

このブログでは、「おすすめの本特集」をカテゴリーで分類していて、様々なジャンルの本を紹介しています。本が好きな方はぜひ読んでみてください

僕が読んだ1400冊からオススメのエッセイ本を紹介する

SOGEN

2005年から読んだ本を全て記録しています。その記録が1400冊を超えたので、本当にオススメする本について、ジャンルごとに紹介していきます。

今回は、そのシリーズ第2弾「エッセイ本」を紹介していきます。

 

<おすすめの本を紹介した記事>
■第1弾は本当にオススメする写真家が書いた本
■第3弾は本当にオススメする「サッカーにまつわる本」
■第4弾は心からオススメできる面白い「旅の本・紀行文20冊」
■第5弾は本当にオススメする「ルポタージュ」
■第6弾は本当にオススメする「日本の現代小説」
■第7弾は心からオススメする「家族愛を感じさせる写真集」
■第8弾は「旅をテーマとした写真」を撮りたいと思ったときに参考になるオススメの旅写真集12冊
■第9弾は誰かに贈りたくなるプレゼント本50冊
■第10弾はオススメの伊坂幸太郎作品ランキング・トップ10
■第11弾は「アラスカを旅した写真家・星野道夫の魅力とオススメの本・写真集」
■第12弾はオススメのシリーズ本「就職しないで生きるには」
■番外編:心からオススメできる面白い映画12作品

エッセイとは?その魅力とおすすめ作品を紹介する

ところで、エッセイってどんな本なの?

読者代表

【エッセイとは?】
自由な形式で、通常はある1つのテーマをめぐって書かれた散文。
語源は「試み」の意であるフランス語のessaiより。

エッセイというと、小説家が雑誌の月1連載みたいな企画で日々の出来事を綴っているイメージがあります。
ANAの機内誌である翼の王国で発表されている吉田修一さんの文章を読んだことがある人も多いのではないでしょうか?

旅をしてこんなことがありましたよとか、今月はこんなことがありましたよとか、割と身近に起きたことから筆者が考えたことなんかが書かれています。

個人的にはエッセイはとても好きで、よく読みます。
この記事では、作家が日常的に感じたことを綴った「エッセイ」というジャンルの中で、僕がオススメする作品を紹介します。

 

本当にオススメするエッセイ本11作品

1.
えいやっ!と飛び出すあの一瞬を愛してる/小山田咲子


えいやっ!と飛び出すあの一瞬を愛してる 新装版

SOGEN

小山田咲子さんの著作「えいやっ!と飛び出すあの一瞬を愛してる」です。きっと、今回紹介する作家の中で最も知られていない方でしょう。めちゃくちゃ胸を打つ作品です。

著者の小山田咲子さんは、もうこの世にはいない。
2005年、パタゴニアを自動車で疾走中に横転し、そのまま死亡。享年24歳だった。

この本は、彼女が大学へ進学するとともに上京し、日々の気づきや事柄を綴ったブログをまとめた本である。
言ってしまえば大学生のブログ本。
だが、こんなにも心に響くのはどうしてだろうか。

彼女のことばを紹介したい。

ある人が本気でなにかをやりたいと思った時、その人意外の誰も、それを制止できる完璧に正当な理由など持ち得ない。そんなのあり得ない。

ブログというものは、不思議なものである。

当然彼女に会ったことはないのだが、彼女の繊細な精神が、太陽のような華やかさが、怒りを隠そうともしない素直さが、目の前に浮かんでくる。

僕はこの本を読み終えた後に、しばらく彼女のことばかり考えていた。
心が動く本とは、このような本のことを言うのだろう。

離れて感じる故郷というのは不思議なものだ。そこで過ごした日々を思い出すことは懐かしさとともに少しの後ろめたさと痛みをともなう。
平和で退屈で、皆が何となくやけになっていて、捨ててきたつもりはないのになんとなく戻れない気がする。私の町。

 

2.
ありがとう、さようなら/瀬尾まいこ


ありがとう、さようなら (MF文庫ダ・ヴィンチ)

SOGEN

「そして、バトンは渡された」で本屋大賞を受賞している瀬尾まいこさんの著作「ありがとう、さようなら」です。中学校の教員をしながら小説家をしていた瀬尾さんの、学校での出来事が綴られたエッセイです。

瀬尾まいこさんは小説家でありながら、中学校の教員として勤務していた。

中学生の日常には、たまに奇跡のような瞬間が訪れる。
日常はきっと激務で、様々な事件が起こり、流れるように過ぎていくのだろう。
ただ、一年に何度かご褒美のような瞬間がやってきて、瀬尾さんはその瞬間に立ち止まれる感性があるのだ。
なんとなくわかる。

読んだ後に温かな気持ちになる一冊。

実はもう一曲、”決意の朝に”という歌を僕らは練習しています。でも、これは駅伝メンバーが1つにならないと歌いません。1つになったら、大会の前日にみんなで”決意の朝”にを歌いましょう」と宣言した。
歌につられたわけではない。やっぱり仲間の思いには応えなくては、と思ってしまえるのが中学生なのだと思う。
自分が気持ちを曲げてなくてはいけなくても、クラスが動いていることに協力せずにはいられないのが、中学生のよいところだ。

 

瀬尾さんの著書で本屋大賞を受賞した「そして、バトンは渡された」については、2018年のおもしろかった本で第三位として紹介しているので、参考にどうぞ。

 



 

3.
ワセダ三畳青春記/高野秀行


ワセダ三畳青春記 (集英社文庫)

SOGEN

高野秀行さんの著作「ワセダ三畳青春記」です。クレイジージャーニーでもおなじみの高野さんが学生時代に過ごした絶対に笑ってしまう青春記です。

だれも行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それを面白おかしく書く」をモットーに、コンゴに怪獣を探しに行ったり、危険地帯とされているソマリランドの実態を取材しながら本をつくる辺境作家・高野秀行さんのエッセイ。

 

三畳一間、家賃月1万2千円。
ワセダのぼろアパートで暮らすひと癖もふた癖もある住人たちとの日々を、同じように癖の強い高野さんが書き記す。

そのキャラクターが濃すぎて、私たちの想像の斜め上をいく出来事や思考が飛び交っていき、読んでいておもしろい。
だけど、絶対に実際には関わりたくはない。

ギャグのような日常を大まじめに生きている(書いている)のは、筆者の今の作風とやっぱりリンクする。
大人気ノンフィクション作家の原点的な作品なのではないだろうか。

高野さんの作品に出会ったもう15年くらいが経とうとしているが、やっぱりこの人はおもしろい。

引っ越しの朝は初めての失恋のときとそっくりだった。街がちがって見えるのだ。
朝日を照り返す木々の緑はこんなに美しかったか。近所の中学生がなんと楽しそうにしているのか。近くのラーメン屋から流れる煙は、こんなにもうまそうな匂いを発散させていたのか。
街が客観的に美しい。
私と街が切り離されるように感じる。

 

高野秀行さんの著作「謎の独立国家ソマリランド」については、以下の記事で詳しく解説しているので、参考にどうぞ。

関連記事
高野秀行さんの著書・謎の独立国家ソマリランドを紹介した「心からオススメできる面白い「旅の本・紀行文22冊」

 

4.
断片的なものの社会学/岸政彦


断片的なものの社会学

SOGEN

社会学者の岸政彦さんの著作「断片的なものの社会学」です。ジャンルとしてエッセイではないかもしれませんが、おもしろことは保証します。

 

人が生きていく中で感じたことを、自分の言葉で語られる話はとてもおもしろい。
もうすでに当人すら忘れてしまったような、そんな話を対話を通して探っていくことが、僕の好きな遊びである。

小学校のときに好きだった遊び、それが好きになったきっかけ。
好きな人のどういうところが好きだったのか、どうして嫌われてしまったのか。

もうすでに忘れてしまったような話が、なにかをきっかけにして湯水のようにあふれ出す瞬間。
人と話すことで思い出すこと。ふいに聞こえる音楽や匂いで脳に映像が映し出される瞬間。
この本は、そんな何気ない特別な瞬間を思い出させてくれる。

誰かの人生を聞くことは、自分自身の人生を探ることと同じなのかもしれないと感じさせてくれる。

どんな人でもいろいろな「語り」をその内側に持っていて、その平凡さや普通さ、その「何事もなさ」に触れるだけで、胸をかきむしられるような気持ちになる。
そうした、普段は他の人の目から隠された人生の物語が、聞き取りの現場のなかで姿を現す。
だが、実はこれらの物語は別に隠されているわけではないのではないかとも思う。
それは、いつも私たちの目の前にあって、いつでもそれに触れることができる。

誰もが30年も生きていれば、ストーリーテラーになるだけのストーリーをもっている。
ただ、あまりに日常的に流れていくストーリーに着目することができず、物語は語られることがない。

この本は、そんな物語を丁寧に拾い、綴っている。

人にはそれぞれ物語がある。
そんなことを感じさせる一冊。

ちなみに著者の岸政彦さんの著書はそういったジャンルの本が多く、沖縄に住む人たちの話から描かれた「はじめての沖縄」もオススメだ。
憂いや儚さを含んだ岸さんの文章や写真は沖縄という土地と非常にマッチしていて、たいして知りもしない沖縄のことを無性に想像してしまう。


はじめての沖縄

「はじめての沖縄」については、2018年に読んだ本の中からオススメ本5位で紹介しているので、参考にどうぞ。

5.
走ることについて語るときに僕の語ること/村上春樹


走ることについて語るときに僕の語ること (文春文庫)

SOGEN

世界的知名度のある小説家・村上春樹さんの著作「走ることについて語るときに僕の語ること」です。村上春樹さんのエッセイはたくさん作品がありますが、とても読みやすくて好きです。

村上春樹さんのエッセイはとてもおもしろい。
彼がいかに真摯に、一つのことに向き合ってきたのかがよくわかる。

紀行文の「遠い太鼓 (講談社文庫)」や、小説家という職業について書いた「職業としての小説家」や、読者の質問に答えた「村上さんのところ」も、小説とはまた違った楽しみを感じられる。

 

日本を代表する小説家が30年以上をかけて続けていることは、小説を書くことだけではなく、音楽を聴くことやレコードを集めることだけでなく、ランニングをすることでもあった。

村上さんのエッセイではよく音楽とお酒とランニングのことが語られるが、この本ではランニングについての深い思いが存分に語られている。

そこには、ランニングという行動を通して「なにかを続ける理由」が丁寧に語られていて、僕がなにかを続ける理由も、この本の中に同じように語られている。

僕が言葉に出来なかった思いを言葉にしてくれた、とても素敵な本だ。

人生は基本的に不公平なものである。それは間違いのないことだ。
しかし、たとえ不公平な場所にあっても、そこにある種の「公平さ」を希求することは可能であると思う。そこには時間と手間がかかるかもしれない。あるいは、時間と手間がかかっただけ無駄だったね、ということになるかもしれない。
そのような「公平さ」に、あえて希求するだけの価値があるかどうかを決めるのは、もちろん個人の裁量である。



6.
銀河を渡る/沢木耕太郎


銀河を渡る―全エッセイ―

SOGEN

沢木耕太郎さんの著作「銀河を渡る」です。バックパッカーのバイブルである「深夜特急」など、ノンフィクションライターとしておなじみ沢木さんの日々が綴られています。

 

デリーからロンドンまで乗り合いバスで旅をしたバックパッカーのバイブル「深夜特急」でお馴染みの沢木耕太郎さんのエッセイ集。
おもしろくないはずがない。

ちなみに、沢木耕太郎さんは毎年クリスマス・イブの夜にラジオを放送している。
コロナ騒動で今年は初めて海外へ旅ができなかったらしいが、2020年も無事にラジオを放送してくれた。

沢木さんが一年の出来事を淡々と話すのだが、それらはどれも大きな出来事というよりは、細やかだけれど印象に残る出来事だったりする。
文筆家だけでなく、ストーリテラーとしての沢木さんの魅力にどっぷりとハマる方も多いはず。

さて、「銀河を渡る」では、もちろん多くの名文が書かれているのだけれど、僕も父親になったからこそ感じる名文を紹介したい。僕も娘と「オハナシ」をすることにしている。

娘がまだ幼かった頃、夜、寝かしるけるためによく「オハナシ」をした。小さな布団に添い寝するように横になると、娘が決まって言う。「きょうはなんのオハナシしようか」「なんのオハナシがいい?」すると娘が小さく叫ぶように言う。「イチゴのオハナシ!」
そして、その次の瞬間、即席の「イチゴのオハナシ」を作って話しはじめるのだ。早く眠らせるために主人公に果てしなく同じことを繰り返させたり、意味もない言葉遊びで時間をつぶすようなものもあった。そのようにして、いくついい加減なオハナシを作ったろう。
これから出版する児童書は、そのときの「オハナシ」そのものではないが、そのときの記憶がもとになっていることは確かなように思える。
ささやかだけれど、私の人生の中で最も甘やかなものとなっている、遠い過去の記憶が。

沢木耕太郎さんについては、以下の記事で詳しく解説しているので、参考にどうぞ。

 

 

7.
探検家とペネロペちゃん/角幡唯介


探検家とペネロペちゃん

SOGEN

角幡唯介さんの著作「探検家とペネロペちゃん」です。探検家として極夜の時期の北極を探検したりしている角幡唯介さんが、娘と探検を結びつけて綴ったエッセイ。

 

北極圏には「白夜」と呼ばれる時期があることは、社会の授業で習っているので覚えている人も多いだろう。
白夜は、太陽が沈まない時期のことを表しているのだが、その反対に「極夜」という時期がある。

極夜は、太陽が昇らない時期のことを表していて、その名の通り、ずっと真っ暗な期間が北極圏周辺にはある。
その真っ暗な時期を犬とともに歩きながら数ヶ月探検し、その後に出会う太陽にはどのような意味があるのかを知る、という探検をするような硬派で理解不能な探検家・角幡唯介さん。


極夜行 (文春e-book)

そんな彼が、結婚し、娘の父になった。

探検家とはいえ、一児の父。
子どもができることで、”あの角幡唯介”が、こうなったのか!と、思わず笑ってしまう一冊。

僕も娘が生まれたことで、この文章に心が震えるようになった。

 

「すごかったね、あおちゃん、全部一人で歩いたんだよ。あおちゃんしかできないよ、こんなこと。登ってよかった」

二十二年前に登山をはじめて、私もこれまで多くの山々を登ってきた。厳冬期の北海道の山を一ヶ月近くかけて縦走し、屋久島の沢を単独で縦断した。冬の黒部峡谷も横断したし、幻の滝と呼ばれる剱沢大滝も完登した。雪崩にも三回埋まった。
でも、娘と登ったこのときの天狗岳ほど感動した山はない。橋を渡りきったペネロペが感動の言葉を叫んだ瞬間、私はもう駄目だった。心が震え、頬のまわりの血管が膨張し、鼻頭に何か熱いものがこみあげてきた。言葉を口にしようとすると、涙がこぼれそうになる。この子は今、生まれてはじめて達成感というものを知ったのだ。ひたすら身体を動かし、困難を乗り越え、目標を達成したときに突き上げてくるあの清々しい気分が、身体全体にくまんくみなぎるのを感じているのである。自分の子どもが手にしたものの大きさを想像するだけで、私は心臓を素手で掴まれたように心が震えた。

なんて素敵な文章なのだろう。

探検家にとって、自分の足で未開の地を歩き、挑戦することが生きがいだったはずで、それこそが達成感を得られることであり、生きる意味だったと思う。
だけど、それらを味わってきた探検家・角幡唯介が登ってきたどの山よりも、「娘と一緒に登った平凡な天狗岳ほど感動した山はない」と書かれている。

自分の達成感を得ることは貴重な体験だが、大切な人の達成感を得ることに立ち会えることは更に貴重なのかもしれない。
誰かのために生きることについて、考えた一冊。

 

角幡唯介さんの「極夜行」については、2018年に読んだ本の第一位として紹介しているので、参考にどうぞ。

 

8.
作家と一日/吉田修一


作家と一日 (集英社文庫)

SOGEN

吉田修一さんの著作「作家と一日」です。ANAの機内誌「翼の王国」で旅のエッセイを連載していて、それを単行本化した作品です。

 

ANAの機内誌「翼の王国」で連載されている吉田修一さんのエッセイをまとめた本。
ANAの飛行機に乗ったことがある方は、一度は目にしたことがあるかもしれない。

旅先で感じるふとした瞬間、切り取った風景、出会った誰かとの大切なひととき、毎日の暮らしの中で起きるちょっとした奇跡と、心の揺らぎ。

旅先で感じた些細だけれど忘れたくないことを、丁寧な文章で綴っています

きっとあなたの過去にもそんな物語があって、その出来事を回想する一冊。

考えてみれば、このように旅先で偶然出会い、その後も頻繁ではないにしろ、付き合いが続くようなことがわりと多い。
もちろん、一人旅も多いし、一人で歩き回ることが好きなので、大勢でいる人よりも話しかけられる機会は多いのだろうが、旅先で触れ合う一瞬というのは、なぜ日常の一瞬よりも強く印象に残るのだろうか。

 

 

9.
ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー
/ブレイディ みかこ


ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー

SOGEN

ブレイディ みかこさんの著作「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」です。2020年に読んだ本の中から第一位として紹介した本です。

 

2019年ノンフィクション本大賞を受賞したブレイディみかこさんの「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」が、今年読んだナンバー1。

ノンフィクション本大賞とは?
ノンフィクション本のおもしろさや豊かさをもっと体験して欲しいと、本屋大賞とヤフー株式会社の協力により、要望の高かったノンフィクションを対象にした賞。2018年に新設されたこの賞は、過去の受賞作として、このブログでも【2018年】本当に読んでよかったオススメ本ランキング11で1位に認定した「極夜行|角幡唯介」がある。

物語の舞台は、イギリス人の父親と、日本人の母親から生まれた中学生の「ぼく」が、イギリスで暮らす中で起こる日々を綴った作品。
その中で直面する人種差別、ジェンダーの悩みや貧富の差、自分のアイデンティティ…。
1つ1つの出来事に直面するたびに「ぼく」や母が考え、それぞれの視点が増えていくことで、読者である僕自身も考えるようになっていくような引き込まれていく。

この物語の舞台はイギリスだけれど、決して対岸の話ではなくて、世界で、日本で、僕の暮らす街で、家の周りで少しずつ形を変えながら起こっていることでもある。作品が展開していく度に、きっとあなたの世界とリンクしていくはずだ。

この作品は、きっと永久に読まれ続けるだろう作品です。ぜひ読んでほしい。

 

そう言って笑っている息子を見ていると、彼らはもう、親のセクシャリティがどうとか家族の形がどうとかいうより、自分自身のセクシャリティについて考える年頃になっているのだと気づいた。さんざん手垢のついた言葉かもしれないが、未来は彼らの手の中にある。世の中が退行しているとか、世界はひどい方向に向かっているとか言うのは、多分彼らを見くびりすぎている。

少年の通う学校では「シチズンシップ」の授業があります。
その授業では人種差別や世界の文化、LGBTQや政治活動について学ぶのですが、その授業で習ったことを実世界で体験する場面が多々でてきます。

例えば、LGBTQについての授業を受けた日の帰り。

12歳になった4人の友人たちの中で「ぼく」とAくんは「異性が好きだ」と話していた。
「当たり前だ、異性以外ありえない」とムキになったBくんもいました。
そんな中、「ぼくはまだわからない」と言ったCくんがいた。

Bくんは、最初ショックそうな様子をしていたのだけれど、Cくんがあまりにクールで冷静に話したものだから、それに気圧されたように「時間をかけて決めればいいよ」なんて言った。
そんな様子のBくんがおもしろかったと母に話す「ぼく」

これ、すごくないですか?

日本の12歳といったら、他と違うことを極端に恐れる年代。

個性を出したいと思いつつも、他人と大きく外れることも、意見が異なることも、良しとしないような空気がある。
変に目立たないように、例え意見があったとしても黙っていることも多く、こうやって友人に「もしかすると自分は同性愛者かもしれない」と伝えられるような環境は少ない。

これは教育の力だと感じるし、とても素敵なことだと思う。
それこそ「無知」は人を傷つけることを生むけれど、こうやって「知っている」だけで一つずつ視点が増えていく、まさに教育の力だと感じる。

差別、貧困、思想
この本にはこういったちょっと重たそうな事柄が散りばめられていながらも、何度でも読みたくなる作品です。

「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」については、以下の記事で詳しく解説しているので、参考にどうぞ。

 

10.
家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった/岸田奈美


家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった (コルクスタジオ)

SOGEN

岸田奈美さんの著作「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」です。笑えて泣ける作品です。

 

noteで大人気の作家、岸田奈美さんの初の著作本。
なんとなく、仕事に疲れたり、人間関係が鬱陶しくなったり、故郷を思い出して寂しくなった人にオススメしたくなる

 

なにもない家族なんてないとは思いますが、「家族」をテーマにエッセイ本を書いた岸田奈美さんの家族には、これまで多くのあれこれがありました。例えばこんな話があります。

岸田さんが中学2年生の反抗期だった日に、ささいな争いから「パパなんか死んでしまえ」と目も合わせずに言ってしまった。その夜、一言も話せないまま父が心筋梗塞で亡くなってしまった。

高校生のときに母が突然倒れた。「手術しなければ間違いなく死ぬ、手術しても80%死ぬ」と医者に言われ、手術することを選択して、なんとか一命を取り留めた。母はその後遺症から車椅子生活になった。

休職中だったズタボロだった岸田さんを、ダウン症で知的障害のある、穏やかで優しい4歳下の弟が救ってくれた。

岸田さんが家族に起こった出来事を、抜群の表現力で、時にユーモアに、時に温かく、エッセイとして書いた一冊です。

このエッセイの中で特に好きだった話について紹介します。

病気から車椅子生活になった母は、リハビリ中に「また沖縄へ行きたいな」と話した。岸田家にとって、沖縄は家族で毎年訪れていた特別な場所だった。
その願いを実現したいと思った岸田さんは、Googleで「車椅子の旅」を検索したけれど、当時は今ほどバリアフリー旅行はメジャーではなく、なかなか見つからなかった。
車椅子で旅をするのはちょっとした段差や移動など、なにから考えたらいいのかわからない。
それではと、旅行代理店へ向かった。

「母と沖縄へ旅行したいんです。母は車椅子なんです。すみません」
咄嗟にすみませんと謝ってしまうほど、不思議にも申し訳なさを感じていた岸田さんに、受付のお姉さんはバリアフリー部屋をあっさりと見つけ、レンタカーを送迎タクシーに変更し、車椅子で乗りやすい飛行機の席を決め、「楽しんじゃってください」と抜群の笑顔で全てを決めてくれた。
沖縄に着くなり、「岸田さん」とプレートをもったタクシー運転手・とうめさんが「旅行会社の人には内緒ね〜」と、本当ならしてはいけない寄り道をして、誰もいないビーチへ連れていってくれた。
車内では「歩けなくなっても、ほんとに来れた」と、母が信じられない様子で話したのを、ちょっと泣きそうになりながら岸田さんは聞いていた。
不可能だと思っていたけれど実現できた沖縄旅行を、それから毎年続けている。
父はいなくなったけれど、母は車椅子になったけれど、美しい海を眺めに毎年訪れている。

そしてこの話の最後に、こんな素敵な描写がありました。

あの時、沖縄への道を開いてくれた店員さんの名前は、残念だけどわからない。とうめさんにもう一度会いたくて「とうめ タクシー 沖縄」で検索しても、何も出てこない。
大丈夫だよって。元気にやってるよって。あなたたちのおかげだよって。
あの旅行に関わってくれた人たちに、お礼を伝えに行くことはもうできないけれど。
それでもせめて、どこかで、このお話が届きますように。

当たり前にあった日常が、突然のキッカケから、その当たり前を失ってしまった。
どうしていいかわからず、途方もなく過ごしていたときに、「当たり前のように手助けしてくれた人」たちがいた。

その人たちにとっては手助けは「日常の仕事」の一つだったのだろうけれど、その日常の仕事が、誰かの特別な希望になることがある。

 

僕はこの話がとても好きで、岸田さんがちょっと泣きそうになったという描写を読んで、ちょっと泣きそうになったりしました。

「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」については、以下の記事で詳しく解説しているので、参考にどうぞ。

 

11.
サバイバル家族/服部文祥


サバイバル家族

SOGEN

服部文祥さんの著作「サバイバル家族」です。サバイバル登山家の家での顔は、意外にも心配性で学歴主義の父親でした。

 

サバイバル登山家として有名な服部文祥さんのエッセイです。
普段は鹿を猟銃で撃って捌いて食べたとか、ツンドラを旅しながら自分で獲物を狩ったなど、力強い文章が多い服部さんですが、家庭での日々を綴った文章は新鮮でとても楽しい作品です。

服部さんの作品を読んだことがある人には、特にオススメの一冊です。

 

婚約した妻を引き止めて付き合ったり、子どもが生まれた場に立ち会ったかと思ったらそのまま地域の運動会のリレーを走りに行ったり、子どもと自転車旅行をしたり。

ああ、服部さんらしい行動だなとと思ったら、一方で、子どもの高校進学に一喜一憂したり、それを正直に綴ったり、食べるために育てたはずの鶏が死んでも食べなかったりと、こんな一面もあるんだなあと思えたり。

とても楽しく読めるエッセイです。

息子がとても一流とは言えない高校しか受験できないときかされてへこみ、落ちたと聞いてさらにへこんだ。息子自身は結果は結果として受け入れ、すでに前を向いているようだ。私は自分が育った家庭環境の影響から、人をまず偏差値で評価する傾向が染み込んでいて、うじうじとしているのだろう。
みんなそれぞれの道を歩いている。子どもたちには幸福になってほしいが、その幸福とは何かがわからない。おそらく幸福にはこれといった形はなく、小さな悩みを抱えながら幸福を目指して生きることが幸福なのかもしれない。

 

服部文祥さんについては、以下の記事でも紹介しているので、参考にどうぞ。

 



小山田咲子、瀬尾まいこ、高野秀行、岸政彦、村上春樹、沢木耕太郎、角幡唯介、吉田修一、ブレイディみかこ、岸田奈美、服部文祥

普段は小説家であり、学生であり、社会学者であり、ノンフィクション作家である方々が、普段とはちょっと違ったフィールドで表現する作品は、なんだか新鮮な面白さがある。

スポーツ選手がオフのトレーニングを見せてくれたり、お笑い芸人への密着番組とかに近いのかもしれない。

エッセイはおもしろい。気に入った作品があれば、ぜひ読んでみてください。

►関連記事:旅をテーマとしたエッセイを書いています。

■第1弾は本当にオススメする写真家が書いた本
■第2弾は本当にオススメする「エッセイ」
■第3弾は本当にオススメする「サッカーにまつわる本」
■第4弾は心からオススメできる面白い「旅の本・紀行文20冊」
■第5弾は本当にオススメする「ルポタージュ」
■第6弾は本当にオススメする「日本の現代小説」
■第7弾は心からオススメする「家族愛を感じさせる写真集」
■第8弾は「旅をテーマとした写真」を撮りたいと思ったときに参考になるオススメの旅写真集12冊
■第9弾は誰かに贈りたくなるプレゼント本50冊
■第10弾はオススメの伊坂幸太郎作品ランキング・トップ10
■第11弾は「アラスカを旅した写真家・星野道夫の魅力とオススメの本・写真集」
■第12弾はオススメのシリーズ本「就職しないで生きるには」
■番外編:心からオススメできる面白い映画12作品

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です