深夜特急3巻と4巻|本の内容とあらすじ・読書感想文

この記事は、沢木耕太郎さんの著書『深夜特急第3巻と第4巻』のあらすじ・内容と魅力について書いている記事です。→Amazonはコチラから
バックパッカーのバイブルとまで言われた全6巻の中編。混沌のインド編とイスラム圏に突入したシルクロード編です。

深夜特急各巻のあらすじと読書感想文

沢木耕太郎『深夜特急』あらすじと内容・まとめ

本好きなSさん
本好きなSさん

『深夜特急』って、旅好きの人には有名な本だけど、どんな本なの?
1巻2巻が面白かったから3巻・4巻のあらすじを教えてほしい!
インド・パキスタン・アフガニスタン・イランの旅を知りたい!

そんな『深夜特急のあらすじを知りたい!』という方のために、深夜特急全6巻を小分けにし、あらすじや内容、時代背景、作品の魅力について紹介していきます。

深夜特急って、どんな本?

深夜特急は、ノンフィクション作家の沢木耕太郎さんが、1970年代にインドのデリーからロンドンまでを乗り合いバスで旅をしたときのことを描いた紀行文です。

1986年に発刊された古い本ですが、今でも「バックパッカーのバイブル」と呼ばれていて、多くの旅人に影響を与えた本です。表紙もかっこいいですよね。

深夜特急 第3巻の目次・あらすじ・内容・ルート

深夜特急(文庫版)第3巻の目次

  • 第七章 神の子らの家
  • 第八章 雨が私を眠らせる
  • 第九章 死の匂い

深夜特急第3巻 『第七章 神の子らの家』あらすじ/内容/ルート

深夜特急第3巻のあらすじをネタバレありで要約します。

シンガポールでインドのカルカッタへ行こうと思い立った沢木耕太郎は、『変更不可』と書いてある【バンコク→デリー】の航空チケットを【バンコク→カルカッタ】へ変更してもらおうと陸路でバンコクへ戻る。交渉の末になんとか変更してもらったチケットを手に、沢木はカルカッタへと向かう。

空港で偶然知り合った2人の若者と一夜を共にすることになった沢木は、ゆっくりと走るタクシーの窓越しに飛び込んでくるカルカッタの光景に、香港に初めて着いた時のような興奮を覚える。インド暮らしの長い若者が「ちょっと寄りたいところがある」と提案してきた誘いに乗ると、3人は売春宿へたどり着く。そこには、これまで見たことのないような幼女が売春婦として働いていて、沢木はその混沌とした光景に、インドの洗練のようなものを感じる。

カルカッタは、沢木にとって香港以来の熱狂に見舞われた旅先となった。悲惨なものも、滑稽なものも、崇高なものも、卑小なものも、全てが心地よかった。久しぶりに巡り合った熱狂の土地を沢木は楽しんだ。

カルカッタから西へ移動した沢木は、釈迦が悟りを開いたと言われるブッタガヤへと向かった。知り合った青年と日本から来た農大生と共にアシュラムという孤児院の共同生活所を訪ね、一緒に共同生活を送ることになる。アシュラムでは午前四時に起床して農業をしたり、子どもと遊んだり、夜は語り合い、規則正しい生活をしながら楽しく有意義な時間を過ごす。沢木は様々な出会いを経験し、アシュラムに別れを告げ、青年や大学生とも別れて次の目的地であるネパールへと旅立つ。

深夜特急第3巻 第七章のルート

カルカッタ→キウル→ガヤ→ブッダガヤ→サマンバヤ(アシュラム)→パトナ→ラクソール(ネパール国境)→カトマンズ

深夜特急第3巻 『第八章 雨が私を眠らせる』あらすじ/内容/ルート

第八章は手紙形式になっている唯一の章。カトマンズから日本に住む誰かに送った手紙には、ネパールでの日々が綴られている。

ネパールは安かったインドの物価よりも更に安く、1泊60円でドミトリーに泊まることができた。食事も安く、人との関係もマイルドで、長期滞在のしやすそうな街に浸り、沢木は居心地よく過ごしていた。しかし、雨季の雨が次第に鬱陶しくなり、何をするのも億劫になって次第に部屋でぼんやりと過ごす時間が増えていく。そんなとき、同じ宿だったフランス人の旅人がクスリのやりすぎで死んだことを知った。

このままカトマンズにいると、いつかは自分も同じように死んでしまうのではないかという恐怖に襲われるものの、もうどうなってしまってもかまわないという気分にもなっていった。

深夜特急第3巻 第八章のルート

カトマンズ

深夜特急第3巻 『第九章 死の匂い』あらすじ/内容/ルート

どうにかカトマンズを抜け出した沢木耕太郎は、再びインドに入国する。目的地はガンジス河で有名なヒンドゥー教の聖地・ベナレス(バラナシ)。ベナレスに到着すると、インドらしくリキシャでの値段交渉や、指定したホテルとは別のホテルに連れていくといったお決まりの歓迎を受けた。

ベナレスでの日々は、やはり心が動いた。ガンジス河の名も知れぬガートで老婦人の敬虔な祈りの情景に出くわしたり、リキシャと牛乳配達の男が交通事故を起こした顛末であったり、無秩序に演じられる大小さまざまな劇に出会うように、沢木はベナレスの日々を楽しんだ。

そんなある日、沢木は体調を崩した。暑すぎるベナレスを離れて療養しようと目論むも、移動するとどんどん体調が悪化していき、とうとうカジュラホではベッドに倒れ込んでしまった。周囲の人々の優しさに助けられながら少し休んでは回復し、移動しては再びぶり返す。そんな悪循環を繰り返し、とうとうデリーにやってきた沢木はYMCAにチェックインすると、年配のボーイに案内されてフラフラになりながらなんとかベッドにもぐり込んだ。

どのくらい眠ったかわからない状態で目を覚ますと、部屋に先程の年配のボーイが立っていた。ボーイは「インドの病気はインドの薬でしか治らない」と言い、薬を飲ましてくれた。どうして部屋にいるのか、荷物を盗まれていないか、飲んだ薬は本当に大丈夫なのか。沢木は様々な疑問が頭に浮かびながら、再び深い眠りに落ちた。

深夜特急第3巻 第九章のルート

カトマンズ→ビルガンジ(国境)→ラクソール(インド側国境)→パトナ→ベナレス(バラナシ)→サトナ→カジュラホ→ジャンシー→デリー

深夜特急(文庫版)第3巻の感想

深夜特急第3巻は、混沌のインド旅を中心に話が展開していく。インドは人も町も文化も全てが一筋縄ではいかず、町を歩いているだけで様々なドラマに出くわしていく。

空港で出会った青年に突然売春宿に連れていかれたり、物乞いの少年に金額を指定されたり、カースト制度の実態を感じたり、旅慣れてきた沢木耕太郎が、ひょんなことから人々と出会い、体験し、旅に体が順応していく様子は、まるで自分も混沌の地を旅しているような臨場感がある。自分もそんな地を旅してみたくなるには十分すぎる描写で、バックパッカーらしい旅がまとまった一冊だ。

ふと、このインドでは解釈というものがまったく不要なのかもしれない、と思えてきた。ただひたすら見る、必要なことはそれだけなのかもしれない。

<深夜特急3巻/沢木耕太郎 より引用>

雨のカトマンズでは、ハシシを吸う以外には、与太話をするくらいしか時間をやり過ごす術はありません。しかも、その与太話といえな、どこの国は安かった、どこの国はフレンドリーだった、どこの国は物騒だったといった類の品評会ばかりです。はじめは私の知らない土地の情報を手に入れられると喜んでいましたが、そのうちに聞いているのが辛くなってきました。一方が食事をおごってもらったと言うと、一方は釣り銭をごまかされたと言う。たったそれだけのことでその国と人を決めつけてしまうのです。聞いていると、しまいには、どっちでもいいじゃねえかそんなこと、と怒鳴りたくなってきます。辛くなってきたのは旅人のそのような身勝手さと裏腹の卑しさは僕の体にも沁みついてしまっているに違いない、と思えてきたからです。
<深夜特急3巻/沢木耕太郎 より引用>

深夜特急 第4巻の目次・あらすじ・内容・ルート

深夜特急(文庫版)第4巻の目次

  • 第十章 峠を越える
  • 第十一章 柘榴と葡萄
  • 第十二章 ペルシャの風

深夜特急第4巻 『第十章 峠を越える』あらすじ/内容/ルート

深夜特急第4巻のあらすじをネタバレありで要約します。

デリーのYMCAで目覚めた沢木耕太郎は、年配のボーイがくれたインドの薬によって熱が下がり、旅を続けることができた。しかし、沢木にとってデリーは、カルカッタほど魅惑的な町には映らなかった。とうとう本来の目的であるデリーからロンドンへのバスの旅をスタートするため、熱狂のインドを発って西へと向かう。

パキスタンに入国した沢木は、その国の明るさと豊かさに感嘆する。食物は道に溢れ、物売りの少年がバス越しにからかってくる。その生き生きとした光景に、荒んでいた心が潤っていくのを感じる。沢木にとってパキスタンのバスは刺激的だったようで、「世界の乗物の中でもこれほど恐ろしいものはない」といったように、バスでの光景がよく表現されているのも特徴的だ。

パキスタンでは災難にも出くわす。ある日、映画を見に行くと、そのパキスタン映画があまりに面白くなかったことで、途中で席を立って帰ることにした。すると、誰かが後ろから付いてくると、棒のようなもので腰を殴られた。殴ってきたのは警察官で、沢木は取り押さえられてしまった。どうにか英語のわかる人がいて通訳を頼み、なんとか事なきを得る。

インドとは全く異なった文化圏であるアフガニスタンの風景を窓越しに眺めながら、沢木はバスの旅を続けていく。

深夜特急第4巻 第十章のルート

デリー→アムリトサル→国境→パキスタン入国→ラホール→ラワールピンディ→タクシラ→ペルシャワール→カイバル峠→カブール

深夜特急第4巻 『第十一章 柘榴と葡萄』あらすじ/内容/ルート

現在ではタリバンに制圧されたカブールは、欧米からのヒッピーにとっては長旅の疲れを癒してくれる聖地と呼ばれる場所だった。

そんなカブールで沢木はラマダンの終わりを迎える。日本の正月の果物がミカンなら、アフガニスタンでは柘榴と葡萄であった。カブールでは客引きをするかわりに安く泊めてくれる宿を拠点に、旧市街や新市街を歩き回る。日本語の合唱が聞こえてきたので行ってみると、日本人の旅人たちの集団が歌っていた。長く旅をしてきた彼らとハシシを吸いながら歌を歌う時間を数日過ごし、皆がまた旅立っていく。別れの挨拶を交わすときに言われた「ほんとにハロー、グッバイだな」という言葉が、気の合った人たちとの別れを一層寂しくさせた。

カンダハルに入ってからというもの、沢木は旅の疲れからか、なにに対しても心が動かなくなっていった。出会う人が親切にしてくれても、奇異な光景に出会っても、ほとんど心が動くこともなくなっていった。

どうにかイラン国境に付いた沢木は、そこでヒッピーバスと出会う。ヒッピーバスとは、ヨーロッパからアジアへかけて1台のバスが安い運賃で乗り合いを繰り返していくバスで、世界中の旅人が利用しているバスだった。きそのバスはメシェッド、テヘラン、イスタンブールと、どんどん西へ進んでいくことになっていた。沢木はテヘランへ行くため、そのバスに乗ることにする。バスには10カ国から集まった金のない旅人が乗っていて、彼らの故郷であるヨーロッパへ向かう。1日半でテヘランへ着くと思われていたバスは、3日かかってようやく到着するのだが、沢木はそのバスでの出会いや工程で、旅の潤いを取り戻していく。

深夜特急第4巻 第十一章のルート

カブール→カンダハル→ヘラート→イラン国境(イスラムカラー)→カルカレフ(イラン側)→メシェッド→テヘラン

深夜特急第4巻 『第十二章 ペルシャの風』あらすじ/内容/ルート

テヘランに着いた沢木は、母親経由で日本から知人夫婦がちょうどテヘランに旅行で来ていることを知り、夕飯をご馳走してもらうべく探すことになる。だが、知人夫婦が滞在しているのは沢木がテヘランに到着したその日までで、どこのホテルに泊まっているかもわからなかった。百軒以上あるテヘランのホテルのどこに泊まっているのかもわからないながら、なんとか情報を集め、どうにか見つけることができた沢木は、知人夫婦と再会し、豪華な食事をご馳走になる。

テヘランは沢木が旅してきた都市と比べ、大都会だった。五日ほどうろつくと飽きてしまい、次の目的地へと旅立つ。シラーズ、イスファハンと巡り、イランを旅していく。イスファハンでは美しい懐中時計に惹かれ、2000リアルだった言い値を粘り強く交渉して950リアルで購入したり、モスクで祈りを捧げる老人たちをぼんやりと眺めたり、のんびりと過ごす。モスクでの老人たちの荘厳な声を聴きながら、ふと、老いてもなお旅をしている自分の姿を見たような気がする。

深夜特急第4巻 第十二章のルート

テヘラン→シラーズ→イスファハン

深夜特急(文庫版)第4巻の感想

インドを後にしてパキスタン、アフガニスタン、イランとシルクロードを旅していく一冊。
今はタリバンに制圧されたアフガニスタンにも当然のように入国して旅をする。そのアフガニスタンは、ヨーロッパのヒッピーたちにとっては「聖地」と呼ばれるような安息地であったことも、時代の流れを強く感じる。僕も長い旅をしていたときはシリアは普通に旅をできる国で評判もすこぶる良かったが、今となってはご存知のようにISによってなかなか入国することはできない国になっている。そういったかつでは普通に旅ができた土地が、今はなかなか訪れることができないといった時代背景もまた、読んでいておもしろい。

長い旅を経験すると「あるある」の光景がたくさん描かれているのもまたおもしろい。

アフガニスタンのバスがチキンレースのようなスピードで走っていたり、ラマダン(断食)中の現地人のソワソワした感じだったり、時計の値段交渉で結局半額まで下がったり。そういう日本ではないけれど、旅をしていると出くわすような光景が、沢木耕太郎という極上の文筆家によって描かれている貴重な旅本です。

例えば、こんな描写があります。

ラマダン(断食)中はは18時になれば食べられるのだが、20分前になるとある人がサトウキビを取り出して隣の人に勧めはじめる。「まだちょっと早いよ」と嗜められると、次の人に差し出す。
10分前になると、別の人がブドウを取り出して勧め、皆に拒否される。そして5分前にまた別の人が菓子を勧めると、今度の人は断らずに食した。それを見た周囲の人々は、次々と手を伸ばし口に入れる。
早く食べたくて仕方ないけれど、自分から戒律を破るのはちょっと…というみんなの心理が手に取るようにわかる光景に出くわす。
<深夜特急4巻/沢木耕太郎 より引用>

ああ、あるあるだなと(笑)

他にも、その土地その土地で評判になる伝説的な宿の描写なんかも面白かった。

ヒッピーたちによって口移しで言い伝えられていく伝説的な宿がある。ニューデリーのコーヒーハウス、ペシャワールのレインボーホテル、カブールのステーキハウス、イスタンブールのホテルグンコールやプディングショップ。ごく初期の頃は別にしても、いまもう格別サービスがいいわけではないのだが、ひとたび伝説化すると、そこは旅をするうえでは必要な情報に集まる場所になっていく。

<深夜特急4巻/沢木耕太郎 より引用>

僕が長期の旅をしているときも、日本人にとって評判の宿はたくさんあって(例えばブダペストのアンダンテや、ウシュアイアの上野山荘、イスタンブールのツリーオブライフ)、そういった宿を目掛けて旅をしたものです。

宿、交通、食事、出会いなど、旅のおもしろさを感じさせる描写が盛りだくさんの一冊です。

沢木耕太郎さんの著書『深夜特急 第3巻・第4巻』まとめ

深夜特急は、「インドのデリーからイギリスのロンドンまでを乗り合いバスで行く」をテーマに、1970年代に著者の沢木耕太郎さんが、ユーラシア大陸横断の旅をした話です。

文庫本では全6巻と長い印象がありますが、1巻200ページほどと文量は薄く、各巻ごとに国や文化が異なるのでとても楽しめるかと思います。

5巻、6巻はいよいよ旅の目的である「デリーからロンドンへ乗り合いバスで行く」という旅の目的をスタートさせ、西へ西へとシルクロードを進んでいきます。
混沌のインド編、イスラム圏のシルクロード編と見どころがたくさんあるのでぜひ読んでみてください。

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