【第8回山本美香記念国際ジャーナリスト賞受賞】 「人間の土地へ|小松由佳」を読んで考えた【書評】

この記事は、集英社インターナショナルから出版された小松由佳さんの著書「人間の土地へ」について書いている記事です。シリア内戦(動乱)を内側から描いていて、現地での壮絶な状況を感じることができる一冊です。

 

書評記事」をカテゴリーで分類していて、様々なジャンルの本を単体で紹介しています。本が好きな方はぜひ読んでみてください。

書評記事一覧
1)角幡唯介|エベレストには登らない
2)菅俊一・高橋秀明|行動経済学まんが ヘンテコノミクス
3)中田敦彦|中田式ウルトラ・メンタル教本
4)戸田和幸|解説者の流儀
5)石川直樹|この星の光の地図を写す
6)岸見一郎|哲学人生問答
7)渡邊雄太|「好き」を力にする
8)高橋源一郎|ぼくらの文章教室
9)石川直樹|まれびと
10)堀江貴文|英語の多動力
11)森博嗣|作家の収支
12)鈴木敏夫|南の国のカンヤダ
13)森博嗣|森助教授VS理系大学生 臨機応答・変問自在
14)米沢敬|信じてみたい 幸せを招く世界のしるし
15)馳星周|馳星周の喰人魂
16)藤代冥砂|愛をこめて
17)佐藤優|人生のサバイバル力
18)せきしろ|1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった
19)服部文祥|息子と狩猟に
20)ブレイディみかこ|ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー
21)河野啓|デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場
22)幡野広志|他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。
23)内山崇|宇宙飛行士選抜試験 ファイナリストの消えない記憶
24)近藤雄生|まだ見ぬあの地へ 旅すること、書くこと、生きること
25)岸田奈美|家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった
26)玉樹真一郎|「ついやってしまう」体験のつくりかた
27)村本大輔|おれは無関心なあなたを傷つけたい
28)小松由佳|人間の土地へ ←今回の記事
29)服部文祥|サバイバル家族
30)地上に星座をつくる|石川直樹
31)加藤亜由子|お一人さま逃亡温泉
32)沢木耕太郎|深夜特急
33)ブレイディみかこ|ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー2

【書評】「人間の土地へ|小松由佳」とは、どんな本?


人間の土地へ

小松由佳さんは、世界第二位の高峰K2に日本人女性で初めて登り、植村直己冒険賞を受賞したフォトグラファーです。その後、シリアに惹かれるようになり、沙漠でラクダと共に暮らすシリア人男性と恋に落ち、シリア内戦(動乱)の混乱を内側から見つめた本書が出版されました。

 

本好きなSさん

シリア内戦(動乱)が壮絶って、どう壮絶なの?
シリアってテロが多い危険な国なんでしょ?

シリアという国の名前を聞けば、ISが浮かぶ方も多いのではないでしょうか?

近年では「シリア=危ない国」というイメージが強くありますが、10年ほど前まではバックパッカーが普通に旅をできる国でした。「安全で、人も良くて、居心地のいい国」と評され、中東の中で非常に人気の高い国でした。

 

この本を読めば、そんなシリアがいかに混乱し、市民の生活が崩され、政治が腐敗し、現地の人の当たり前にあった故郷がなくなっていったのかがよくわかります。
「アラブの春」や「シリア内戦」と聞くと小難しく聞こえるかもしれませんが、小松由佳さんが語りかけるように自分が体験した話を語っている本なので、とても読みやすいのも魅力的な本です。

Twitterにも書きましたが、グングンと引き込まれる一冊です。
きっと小松さんが難しい言葉を使わずに、ありのままに自分の身の回りに起きた出来事を描いているからですね。

 

シリア動乱を現地から描いたこの作品は、オススメのルポタージュを紹介した記事で挙げました。
他のオススメのルポタージュ本って、どんな本があるのか興味のある方は、参考にどうぞ。

「人間の土地へ」著者の小松由佳さんとは?

小松由佳さんとは?

1982年生まれ。
2006年、世界第二の高峰K2( 8611m / パキスタン )に日本人女性として初めて登頂。植村直己冒険賞受賞。その後、フォトグラファーを志し、2012年からシリア内戦・難民をテーマに撮影を続ける。メディアなどにも出演。

 

小松さんはもともと登山をメインに活動し、世界第二位の高峰K2に日本人女性として初めて登頂し、植村直己冒険賞を受賞した方です。本書の冒頭部分にもK2登山の様子が記されています(個人的にはこの登山の章はいらない気はしますが…笑)

植村直己冒険賞は、伝説の冒険家「植村直己さん」に名前を称し、冒険家に贈られる賞ですね。
過去には、クレイジージャーニーでお馴染みの「北極冒険家の荻田泰永」さんや、「8000m峰14座登頂の竹内洋岳」さんが受賞した賞です。

 

小松由佳さんは、北極冒険家の荻田泰永さんと対談もしていて、youtubeにアップされていますので、本を読むのはちょっとなあという方は見てみてください。

「人間の土地へ」|小松由佳」の感想

これまで何度も書いたが、本書は平穏だったシリアが、政治の腐敗からいかに混乱し、壊れていったかを描いた一冊です。

シリア動乱が起きた背景を簡単にまとめると、このような流れになっています。

【シリア内戦(動乱)の流れ】

  • STEP.1
    政府の腐敗
    もともとシリアは政府を批判することができない暮らしだった。秘密警察が町の中にいて、政権批判をすると密告され、逮捕されて拷問を受けるような状況にあった。当たり前のように賄賂を要求され、権力が全ての実験を握っているような腐敗した政治が続いていた。
  • STEP.2
    市民の反対・デモ
    そんな状況に嫌気がさした市民は政権反対のデモを行うなど、反対運動が強くなった。すると、そのデモをおさえるように、警察の取締りが強くなり、デモに参加した人々が次々に逮捕された。逮捕された人々は帰ってこなかった。
  • STEP.3
    反政府軍の運動
    武力には武力を、ということで、市民は反政府軍を組織し、政府に対して武力で対抗した。それらが激化し、町中で争いが起きるようになっていった。そんな中でISが生まれ、イスラムの教えに忠実に生きることを問いた、ISはどんどん激化し、外国人と交流のある者やイスラムの教えに反するものは次々と殺していくようになった。
  • STEP.4
    町の崩壊・市民の難民化
    小松さんのご主人の町・パルミラなどが次々と占領されていき、市民は難民になった。隣国であるヨルダンやトルコへ逃げ、難民キャンプで暮らす人々が増えていった。故郷を失った人たちが次々とでている。
  • STEP.5
    現在
    現在もなお同じような状況が続いている。政府軍、反省軍、ISと、それぞれがそれぞれの正義のもとで争いが起き続けている

著者の小松さんはシリアの沙漠に住んでいたラドワンと恋に落ち、後に結婚するのですが、そのラドワンが愛してやまなかったラクダとともに暮らした沙漠の近くの家は、もうありません。家どころか町も占領され、先祖代々大切にしてきた以前のような沙漠の暮らしは、二度と送ることができないだろう、と描かれています。

その壮絶な状況を、本文を引用しながら、少しだけ解説します。

 

私たちは喫茶店を出て、数メートル離れて黙って歩いた。そして周囲に人がいなくなったことを確認すると、ラドワンは堰をを切ったように一気に話し始めた。シリアは今、普通の状態じゃない。ああいう話を公衆の面前でしちゃだめだ。ダマスカスでは、みな何が起きているかを知りながら、あえて何も知らないふりをしている。秘密警察が監視の目を光らせているからだ。密告者もあちこちにいる。とにかく言動に注意して、特に政情ついては何も口にしないでくれ。

STEP2の状況ですね。

後に小松さんと結婚することになるラドワンと小松さんは、街の喫茶店で話していた。小松さんが現状の危険を話したところ、ラドワンは全く異なる天気の話などで返し、喫茶店を出てから話したときの出来事です。

そしてその後、ラドワンの兄弟は町中で「シリアに自由を!」とデモを行ったことで、警察に追われるようになります。
危険を悟った兄弟は沙漠へ逃亡し、一年ほど身を潜めて暮らすのですが、ほとぼりが冷めたと思って自宅へ帰ると、翌日に警察が家の中に入ってきて国家反逆罪の罪で逮捕されることになります。一年前にデモを行ったことで、です。

その後、兄弟は帰ってくることはありませんでした。

 

また、親族からISに入隊することになる人も現れます。
彼らもまた、「イスラムの教えてを!」という信念のもと、自分たちの正義を守るために戦います。
そんな背景を小松さんはこう綴っています。

彼らはごく普通の若者たちだった。巷ではテロリストとひとくくりにされるが、彼らが先頭の先に求めていたのは穏やかで平和な日常であったはずだ。そうした彼らが、なぜ過激派思想を掲げ、暴力行為を肯定したISに加わったのだろう。

もともとは反体制派として活動し、その後ISと流れたものも多かった。政府軍の圧倒的武力の前に限界を感じたのだ。過激派が台頭していく背景には、自らの力ではどうしようもない貧困や失望の連続、切迫した状況があった。

ISへの参加は、そうした追い込まれた人々の、唯一とも思える選択肢として、希望を抱いて選びとられた結果なのだ。

もちろん暴力行為、テロ行為は許されることではありませんが、その背景には様々な事情があったことを想像させられる文章です。

彼らがそうした行為に至った背景には、どうしようもない現実があった。
自分の力ではどうしようもない状況の中で、「平穏な日常」を求めた結果、闘うしかなかった。
それ以外に選択肢がなく、希望を見出すこともできなかった。

 

先日、パレスチナ・イスラエル問題でも同じようなことを書きましたが、それぞれの立場がそれぞれの立場で「もう、それしか選択肢がない」という状況の中で起こった結果が、今の結果になっています。

パレスチナの人々も、ユダヤ教徒も、ヒトラーを支援したドイツ人も、二枚舌を使ったイギリスも、全てが「その選択しかない」という状況の中で、自分たちのよりよい未来を信じて行動していることを忘れてはいけないなあと感じました。

「人間の土地へ』|小松由佳」に記された名言・名文を紹介

僕は本を読んだら気になった文章をノートに書き記す習慣を、もう15年近く続けています。

インプットの吸収率が圧倒的に上がるし、なにより目に見える形で記録されていくことが自分の自信になる。
そんなサイクルが好きで、コツコツと本から気になったことばを集めています。

本書から気になった文章を紹介します。

この内戦の本質を捉える事は実に難しい。立場や組織によってその見方は変わり、日本においても専門家の間で考えが異なっている。
しかし私はあえて一言だけここに記しておきたい。シリア人は国際的にシリア内戦と称されるこの動乱に、内戦と言う言葉を使わない。彼らは革命と言う言葉を使うのだ。たとえ現場が混沌そのものであっても、この一連の出来事が、確かに自由という人間の当然の権利のもとに戦われたこと。そして破滅に向かうためではなく、いつか実現されるだろう、より良い未来のために起こった出来事だったと信じている。シリア人にとってこの動乱は、民主化と言う理想の下、多くの犠牲を伴いながら進められようとした歴史的な運動だったのだ。

いつか実現されるだろう、より良い未来のために起こった出来事」という文章が泣けてくる。

自由のために戦った動乱。香港もそうですよね。
全ての人にとって明るい未来というのは、なかなか存在しにくいけれど、そういう未来がくることを切に願います。

 

ラドワンが期待するのは、毎日外出することなく家にいて、丁寧に掃除、洗濯、育児をし、何時何時帰宅しようとも、すぐにおいしい食事を用意してくれること。
女性の役割は家族を幸せにすることとアラブ社会で言われるように、家庭の幸せを、最も直接的な形で創造するのが妻たちなのだ。

つまり、私はシリア人の基準で言えば、完全にだめな妻なのだ。
こう考えてみると、それぞれの視点、価値観があることがわかる。自分の文化に則って相手を判断しようとするから、相手の本質を見誤ってしまうのだ。
特に日本人は、多様な文化を受け入れることに比較的寛容である一方で、他者が文化的、宗教的なこだわりを持っていると言うことを、理解しにくい傾向があると感じる。

郷に入れば郷に従えと言う言葉も私たちの価値観に過ぎない。世界には、郷に入っても郷に従わないことをよしとする人々もいるのだ。アラブ社会では、必ずしも郷に従うことなく、どこであっても自らの文化に誇りを持って生きることが普通だ。

これって本当にそうだなあと思う。

ここではわかりやすく他文化(アラブ文化)を挙げてくれているけれど、同じ日本人同士だって、それぞれの感覚は異なっている。
自分の常識が、世界の常識のはずではなく、その基準が正しいか否かは全て主観であったする。

 

夫婦だったり、職場の同僚との付き合い方もそうですよね。
相手が大切にしていることや、その価値観をしっかりと見極めることは大切だとハっとさせられる文章です。

『「人間の土地へ」|小松由佳』の書評まとめ

世界情勢に興味がある方は、ぜひ読んでみてほしい一冊です。
また、興味がない方でも、小松さんが語りかけるように書いた文章は読みやすく、いつの間にか前のめりに引き込まれていきます。

とても興味深い一冊なので、ぜひ読んでみてほしいです。

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集英社インターナショナル
「人間の土地」の評価
面白さ
(4.5)
吸収できた言葉
(4.5)
デザインの美しさ
(4.0)
総合評価
(4.5)

 

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